
(私は、30代にして悪性の脳腫瘍と診断され、明日を生きられるかどうかもわからない日々を過ごしました。約1年半の闘病生活を経て、寛解し、以前と変わらぬ生活が送れるまでに回復できました。『人生、何が起こるか分からない』。この言葉を私ほど感じているM&Aプレーヤーはいないと思います。このコラムは、こうした私の経験・体験から、『経営者の方々をはじめとする皆さんに、私なりのメッセージを届けたい』という思いから、私自身や弊社社員が経営者の方から受ける質問や相談にお答えするというかたちで構成しています。主観的な内容が含まれますが、あらかじめご了承いただき、最後まで読み進めていただきたいと考えています。なお、特定を避けるため、質問や相談に関して個人情報等にかかる部分は加筆・修正をして掲載しています。)
先日、健康診断で病気の可能性があると分かりました。特に問題なく生活を送れていたのに、この先どうなるかと思うと不安です。まだ誰にも話せておらず、どうしようか迷っています(50代、男性、建設業社長)
お気持ち、すごくわかります。私は病気になったとき、すごく不安になりました。そして、病気のことを、誰に、どこまで話すべきなのか本当に悩みました。まずはご自身のお体を大事にすることを優先していただきたいです。
今回伝えたいメッセージは、
『自分だけで解決しようとしないこと。周りの助けを存分に生かすこと』
です。
病気というものは、自分が想定してない状況で発覚することもあるかと思います。『思ったより深刻だった』『思ったより治すのに時間が掛かりそう』。こんな状況もあるかと思います。その時に自分だけでさまざま解決をするのは難しいものです。
会社を経営されている方であればなおさら、利害関係者が多く、『誰に話すべきなのか』『話さないべきなのか』などで頭を巡らせることも多いでしょう。
一方、自分自身を大事にしたいという観点からも頭と心を使うことになりうるので、相応の負担が掛かるはずです。
私はというと、悩んだ末、家族のほか、地元の旧友らに話せる範囲で状況を打ち明けました。すると、意外と話したことですっきりできた、ということに気づけました。また、話した中で得られた情報から、それまで考えてもいなかった選択肢が出てきました。
『こんなこと言いたくない』という恥ずかしい思い、『自分だけでなんとかなるだろう』というお気持ちも理解できます。慌てなくてもいいので、お話できそうな方が周りにいらっしゃったら、少しずつご相談されるのがよいかと思います。
少し私のお話をさせていただきます。病気が発覚した当時、私はまだ独身でした。お付き合いをしていたパートナーはいましたが、伝えたほうがいいか、すごく悩みました。
ただ、病気が発覚した翌日には入院をしなければいけない状況だったので、まずは一番近くにいたパートナーに話をしました。そのパートナーはすごく驚いていましたが、私を気遣ってくれ、私の心境を私のペースに合わせて聞いてくれました。
私自身は病気の発覚に驚きましたが、『本当に病気なのか、、?』と最初はなぜか冷静でした。しかし、少しずつパートナーと話すうちに、自分が病気だという現実を受け入れざるを得ず、冷静さを失いました。そんな不安定な心についても正直に話せたので、すごく楽になり、救われたことを覚えています。
一方、私の両親への伝え方には迷いました。動転してしまう両親の姿を容易に想像できたからです。そこで、私自身の心の準備が整ってから話したほうがいいと思い、入院翌日に打ち明けることにしました。自分自身が整っていないと、伝わり方がおかしくなったり、そのおかしな伝わり方をもとに別の方々にもその情報が流れていってしまうと思ったからです。一呼吸おいて両親に打ち明けたことは、今でも良い判断だと思っています。
病気発覚後から1年半、闘病生活を送ったのですが、思っていた以上に長かった記憶があります。平日は当たり前のように仕事をして、土日は当たり前のようにその疲れを休めるという日常から激変し、毎日決まった時間に食事をして、それ以外はベッドに横になっているという時間を過ごしました。孤独感だけではなく、自分だけ取り残されている感覚にもなりました。
考えごとをする時間が多く生まれてしまい、余計なこと、ネガティブなことが思い浮かぶこともありました。ですが、それではダメだと感じ、それ以前であれば関心がなかった分野の本を読んだり、時間を要するような資格の勉強にあえて取り組んでみたりしました。時間を潰すための作業になっていたかもしれませんが、意外にも気持ちがリフレッシュできてよかったです。
入院からしばらくして、私と関係性が近い方々には病気のことを伝えることができたので、「大丈夫?」とメッセージをいただくことが増えました。その中で、すごく驚いたことがあります。ある友人が、私の病気のことを聞きつけ、寄付団体を設立してくれました。たくさんの方々に寄付をいただきました。そのとき、『自分は本当に周りの方々に支えてもらっている』ということを身に染みて感じました。周囲に相談するということが、自分の想像を超えた結果をもたらすことがある、と感じた瞬間でした。
私の話が長くなりましたが、冒頭にも書かせていただきました通り、まずご自身のお体を第一にしていただきたいと思います。なかなか心が整わないこともあるかと思いますが、私の経験上、ご自身のペースで、ご自身が大事にされている方々にお話することで、心を落ち着かせてくれることもあるだろうと感じています。
いま抱えている仕事について、また、ご自身の人生について、不安になることは当然かもしれません。ただ、それを理解してくれる人はきっといると思います。そして、支えてくれる人もきっといると思います。ご自身のペースで進めていくことで、良い方向になることを願っております。
「万が一」に備える必要性に気づいた
再び私の話に戻りますが、以前と変わらぬ生活が送れるようになってからは、不定期ではありますが、家族や近しい人たちに自分の状況を話せる範囲で話すようになりました。私は自分のことを自分から話すことはそれほど得意ではないのですが、いま思えば、病気が発覚する前から、身の回りのことを見直してみる時間をつくったり、周囲に何か共有できることは少しでも話しておけば、と思うこともあります。
経営者の方々はその立場や責任から、お話できる内容、お話しできる人が限られるかと思いますが、「万が一」のときこそ、日頃からの準備が効いてくるのではないかと思います。家族や親族は事業承継の「もしも」を考える身近な存在でしょうし、会社の幹部は緊急時の要となりえます。顧問の専門家(弁護士や税理士の方など)との関係性を築くことも大切ではないでしょうか。
一方、そうした身近な方々にもお話することが難しいという方がいらっしゃるかもしれません。そうした際は、私でよければいつでもご相談を受け付けておりますので、ご遠慮なくお知らせください。
コメント