【一覧比較】M&Aのスキームとは?種類やメリット・デメリットを紹介

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執筆者 辻裕志郎

信州大学を卒業後、北陸銀行に入行。ファイナンス、事業承継コンサルティング、外国為替、ビジネスマッチングなど幅広い業務に従事。後継者不在、相続税問題等に起因する事業承継業務に携わる中で、M&Aによる経営課題解決の可能性を強く感じたことで転身を決意し、M&A worksに参画。

【一覧比較】M&Aのスキームとは?種類やメリット・デメリットを紹介

近年、M&Aは企業戦略の一環として多くの業界から注目されており、実施を検討している企業は多いでしょう。M&Aの手法(M&Aスキーム)にはさまざまな種類があり、自社の状況やM&Aの目的によって適切に選択する必要があります。そのため、M&Aスキームの種類別の特徴について把握しておくことが大切です。

この記事では、M&Aスキームの種類別の特徴やメリット・デメリットについて解説します。M&Aを検討している人は参考にしてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の法的・税務的助言を行うものではありません。具体的な案件については、弁護士・税理士などの専門家にご相談ください。

1. M&Aスキームの種類について

M&Aスキームの種類は、大きく「買収」「合併」の2つに分けられ、実施する目的によって使い分けるのが一般的です。

買収は、譲受企業が譲渡企業の株式や資産を取得し、経営権を得る手法のことを指し、代表的な買収スキームには、「株式取得」「事業譲渡」「会社分割」などがあります。

合併は、2つ以上の企業を1つに統合する手法のことです。経営資源を効率的に活用し、事業の規模拡大を図ることができます。合併スキームには「新設合併」「吸収合併」などがあります。

広義のM&Aに含まれる「提携」のスキームもあります。提携は、M&Aとは異なり、経営権の移動を伴わない点が大きな違いです。「資本提携」や「業務提携」など、企業間で特定の目的のために協力関係を築く手法です。提携は、M&Aよりも緩やかな協力関係から始められるため、リスクを抑えたい場合に選択されることがあります。

2. 【買収】M&Aスキームの種類別の特徴

買収は、M&Aのなかでも特に多様な手法がある分野です。ここでは、買収に関連するM&Aスキームの種類について解説します。

2-1. 株式取得の特徴

株式取得の手法は、大きく「株式譲渡」「第三者割当増資」「株式移転」「株式交換」の4つに分けられます。ここでは、それぞれの特徴について解説します。

2-1-1. 株式譲渡

株式譲渡は、譲受企業が譲渡企業の株式を取得し、譲渡企業の経営権を掌握する手法です。株式譲渡は、M&Aスキームのなかで最も使用される機会が多く、迅速な戦略的な経営改革や事業拡大などを目的に行われます。

株式譲渡の譲受・譲渡企業の主なメリット・デメリットは以下の通りです。

株式譲渡の主なメリット

譲受企業・譲渡企業の経営方針の変更や事業戦略の実施が容易になる
・人材や資産、顧客などを包括的に継承できる
譲渡企業・既存事業を存続できる
・株主は株式の売却によりまとまった資金を得ることができる

株式譲渡の主なデメリット

譲受企業・実施後に想定外の負債や簿外債務が見つかる可能性がある
・会社は個別であるため、連携に時間がかかり統合がうまくいかない可能性がある
譲渡企業・株主は株式を譲渡することで経営権を失う
・従業員がM&Aに対して不安を抱く可能性がある

2-1-2. 第三者割当増資

第三者割当増資は、企業が新たに発行する株式を特定の第三者(譲受企業)に割り当てる手法です。第三者割当増資は主に資金調達の目的で実施されることが多く、ベンチャー企業や未上場企業のほか、上場企業でも企業再生の際などに活用されます。

第三者割当増資の譲受・譲渡企業の主なメリット・デメリットは以下の通りです。

第三者割当増資のメリット

譲受企業・原則としてTOB(株式公開買付け)の煩雑な手続きが不要
・新たな株式を取得することで出資先の経営に参加できる
譲渡企業・資金を調達できる
・新しい投資家との関係を築くことで、事業の新たな展開や協力関係を生み出せる

第三者割当増資のデメリット

譲受企業・既存の株主にとっては、新株発行による株価の希薄化が起こる可能性がある
・第三者割当のみで完全子会社化することは困難
・重要事項を決定する際に、少数株主の同意を得なければならない可能性があり意思決定の遅延につながる可能性がある
譲渡企業・新たな株主の参入により経営権が分散され、既存の経営陣の影響力が低下する可能性がある
・既存の株主にとっては、新株発行による株価の希薄化が起こる可能性がある
・新旧株主間での利害調整が必要になり、経営上の複雑さが増すことがある

2-1-3. 株式交換

株式交換は、譲受企業が譲渡企業の株式を取得し、その対価として自社株式を交付する手法です。株式交換によって両社は資本や経営面で密接な関係を築くことになるため、事業の相乗効果に期待できます。

株式交換の譲受・譲渡企業の主なメリット・デメリットは以下の通りです。

株式交換の主なメリット

譲受企業・自社の株式を対価とするため、現金を用意する必要がない
・新株を発行することで株主構成に変化をもたらし、経営の多様性が高まる
譲渡企業・株主は譲受企業の株を取得でき、新たな投資機会を得られる
・子会社として存続できる

株式交換の主なデメリット

譲受企業・株式譲渡と比べて手続きが複雑である
・新株の発行により、既存株主が持つ1株あたりの価値が下落する可能性がある
譲渡企業・譲受企業が非上場企業の場合、取得した株式の換金が困難になることがある

2-1-4. 株式移転

株式移転は、新設の持株会社を設立し、既存会社の全株式をその新設親会社に移転して完全子会社化する手法です。譲渡企業は、移転した譲受企業の完全子会社となり、親会社の株式を取得します。

株式移転は、特に企業グループ内での事業の効率化や経営戦略の統一を図る際に有効な手法です。

株式移転の譲受・譲渡企業の主なメリット・デメリットは以下の通りです。

株式移転のメリット

譲受企業・株式を対価とするため、現金を用意する必要がない
・異なる企業間での経営戦略を統一し、グループ全体の競争力を強化できる
譲渡企業・経営資源の再編により、グループ内での相乗効果を生み出せる
・親会社の株主になれる

株式移転のデメリット

譲受企業・複雑な法的手続きを伴い、時間やコストが発生する
譲渡企業・親会社の意向に沿って経営を行う必要があるため、独自の経営判断が難しくなる可能性がある株式移転により、売り手の経営権が相対的に低下する可能性がある

2-2. 事業譲渡の特徴

事業譲渡は、譲渡企業が持つ特定の事業とそれに関連する権利義務や資産などを個別に選んで譲受企業に譲渡する手法のことです。

事業譲渡は、譲渡企業の特定の事業のみを取得したいときに行われます。

事業譲渡の譲受・譲渡企業それぞれのメリット・デメリットは以下の通りです。

事業譲渡のメリット

譲受企業・譲渡企業の事業基盤を活用して、事業拡大を迅速に行える
・特定の事業のみを選別して引き継ぐため、簿外債務といったマイナス資産の継承を避けられる
譲渡企業・非核心事業の売却で資金を調達し、ほかの事業への投資ができる
・会社を存続させたまま事業の選択と集中を行える

事業譲渡のデメリット

譲受企業・従業員や取引先との契約、許認可などを個別に引き継ぐ必要があり、手続きが複雑で時間がかかる
譲渡企業・重要な事業を売却する場合、将来的な収益機会を失う可能性がある
・売却された事業の従業員の雇用に不安をもたらすことがある

2-3. 会社分割の特徴

会社分割には、「吸収分割」と「新設分割」の2種類があります。吸収分割は、譲渡企業の事業の一部を、別の既存企業に移管する手法です。一方、新設分割は、分割される事業を新たに設立する企業に移管する方法です。

会社分割は、特定の事業を集中的に強化したい場合や、不採算部門を切り離したい場合に適しています。

会社分割の譲受・譲渡企業それぞれのメリット・デメリットは、以下の通りです。

会社分割のメリット

譲受企業・特定の事業部門を強化し、その事業分野での競争力の向上が図れる
・事業部門を包括的に引き継ぐため、事業譲渡よりも手続きがシンプルになる場合がある
譲渡企業・非効率な部門を切り離すことで、残る事業の効率化を図れる
・重要な事業に資源を集中させ、全体の競争力の向上を図れる

会社分割のデメリット

譲受企業・異なる企業文化やシステムの統合にコストが発生する
・承継する事業の簿外債務や偶発債務を引き継ぐリスクがある
譲渡企業・法的な手続きや再編成に関連したコストが発生する
・従業員に不安を与え、組織内での混乱を招く可能性がある

3. 【合併】M&Aスキームの種類別の特徴

合併のM&Aスキームは、「新設合併」と「吸収合併」の2つに分けられます。それぞれの特徴やメリット・デメリットを確認しましょう。

3-1. 新設合併の特徴

新設合併は、複数の企業が解散し、すべての権利義務を新設される会社に移転する手法です。新設合併では、既存各社は消滅会社、新たに設立する会社が新設会社と呼ばれます。

消滅会社が持つ許認可や上場企業としての地位などは新設会社に引き継がれないため、手続きが煩雑で、あまり利用されない手法です。

新設合併の存続会社・消滅会社の主なメリット・デメリットは以下の通りです。

新設合併のメリット

存続会社・対価として現金を用いる必要がない
・経営統合がスムーズに進み、相乗効果を得やすい
消滅会社・株主は存続会社の株を取得することでグループの一員として新たな投資機会を得ることができる

新設合併のデメリット

存続会社・株式を交付するため、株主構成が変更される 
・M&A後の統合プロセスの負担が大きい
消滅会社・存続会社が非上場企業の場合、取得した株式の換金が困難になることがある

3-2. 吸収合併の特徴

吸収合併は、複数の既存企業を1つに統合させる手法です。複数の既存企業のなかから1社が存続し、ほかの企業は解散します。解散する企業の権利義務はすべて存続する企業が吸収する仕組みです。存続する会社を存続会社、解散する会社を消滅会社と呼びます。

吸収合併は、新設合併と比べて手続きがシンプルとされています。上場会社が存続会社であれば上場地位は通常維持可能である一方、許認可は法令ごとに承継可否が異なるため、個別の許認可は確認が必要です。

吸収合併の存続会社・消滅会社の主なメリット・デメリットは、以下のとおりです。

吸収合併のメリット

存続会社・新設合併と比べて手続きが比較的シンプルで、コストや時間を抑えられる場合がある
・消滅会社の事業や資産、負債などを包括的に承継できるため、事業の拡大や効率化を迅速に進められる
消滅会社・株主は存続会社の株主となることで、新たな事業や経営基盤に参画できる

吸収合併のデメリット

存続会社・消滅会社の簿外債務や偶発債務など、想定外のリスクを引き継いでしまう可能性がある
消滅会社・存続会社が非上場企業の場合、取得した株式の換金が困難になることがある

4. 【提携】M&Aスキームの種類別の特徴

提携は、「業務提携」と「資本提携」の2種類に分けられます。ここでは、それぞれの特徴やメリット・デメリットについて解説します。

4-1. 業務提携の特徴

業務提携は、企業の買収・合併などの資本移動を伴わずに企業間で協力関係を構築する手法です。1社では解決できない課題への取り組みや他社の技術・ノウハウを組み合わせることで、事業を成長させる際などに用いられます。

業務提携は、生産、販売、技術など多岐にわたる分野での活用が可能です。例えば、生産では委託生産を利用して効率を高め、販売提携では共有された販路を通じて販売力を高められます。業務提携のメリット・デメリットは以下の通りです。

業務提携のメリット

・資金が不要で、比較的短期間で実施できる
・提携先の技術やノウハウ、販路などを活用することで、自社の弱点を補い、事業リスクを分散できる
・提携解消が比較的容易なため、柔軟な戦略変更が可能

業務提携のデメリット

・契約内容が不明確だと、提携先との間でトラブルが発生する可能性がある
・提携先との連携がうまくいかない場合、期待した効果が得られないことがある
・技術やノウハウの流出など、情報漏えいのリスクがある。
・提携先に過度に依存することで、自社の自立性が低下するリスクがある

4-2. 資本提携の特徴

資本提携は、提携する企業間で支配権を持たない範囲の株式を交換し、双方の協力関係を強固にする手法です。資本提携では株式を用いるため、業務提携よりも強固な関係性を築けます。

資本提携の具体的な方法は、株式の持ち合い、出資、合弁会社の設立などがあります。資本提携のメリット・デメリットは以下の通りです。

資本提携のメリット

・経営権を移動させることなく他企業と協力関係を構築できる
・業務提携と異なり、資本関係があるため、協力関係の継続性が高まる

資本提携のデメリット

・経営に介入される可能性があるほか、将来的に敵対的買収のリスクにつながる可能性がある
・資本関係の解消には手間と時間がかかり、複雑な手続きが必要
・予測していない時期に株式を買取請求される可能性がある

5. M&Aスキームの種類ごとに発生する税金

M&Aでは、使用するスキームによって発生する税金が異なります。ここでは、主なスキームごとの一般的な税務上の取扱いを解説します(個別案件は前提条件により結論が異なるため、最終判断は税理士へご確認ください)。

5-1. 株式譲渡の税金

株式譲渡は、売却代金を受け取る株主(個人・法人)が課税の対象となるのが一般的です。

個人株主の場合、株式譲渡で生じた利益(株式譲渡所得)は、原則として所得税15%・住民税5%・復興特別所得税0.315%を合算した20.315%の申告分離課税が適用されます。課税対象となる利益は、通常「譲渡価格 − 取得費 − 委託手数料等」で計算します(特例適用の有無により取扱いが変わる場合があります)。

法人株主の場合、法人税等は当期の課税所得に基づき計算されます。実効税率は企業規模・所在地・所得水準等によって異なりますが、概ね30%前後の水準が目安とされています。なお、法人は他の損益と通算した最終的な課税所得が基礎となるため、株式譲渡で利益があっても、通算結果が赤字となる場合には法人税等が生じないことがあります。

5-2. 事業譲渡の税金

事業譲渡では、譲渡側の法人に譲渡益課税が生じ得ます。法人税等は、株式譲渡と同様に他の損益と通算した課税所得を基礎に計算されます(繰越欠損金の控除可能性や制限の有無は各社の状況によって異なります)。

また、譲渡資産に消費税の課税資産が含まれる場合、譲受側が消費税相当額を負担し、譲渡側は受領した消費税を申告・納付するのが一般的です。

5-3. 組織再編の税金

合併・会社分割・株式交換・株式移転などの組織再編は、税法上の「適格要件」を満たすかどうかで課税関係が大きく変わります。原則として、組織再編による資産・負債の移転は「時価」で評価され、その評価損益に課税されます。

一方、税法で定められた要件に沿った組織再編の場合、特例として資産や負債の移転を「簿価」で行うことが認められています。評価損益を計上せずに課税が将来に繰り延べられる取扱いとなります。適否の判断や要件に足りているかの確認は、税理士の方へご相談ください。

5. まとめ

買収、合併、提携といったM&Aスキームは、種類によって異なる特徴があります。M&Aを実施する際は、自社の状況やM&Aの目的に応じた手法を選択することが大切です。

自社に合うM&Aスキームを選択し、M&Aを成功させるには、専門家に依頼することをおすすめします。M&Aを検討している人は、当社にご相談ください。連携する弁護士等の専門家とともに、最適なM&A戦略を提案し、実行を支援します。

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