
M&Aによって会社をご売却すれば、起こりうる経営課題を解決できる可能性があります。たとえば、後継者問題、従業員の雇用の継続、などです。このようにM&Aにより享受できるメリットがあるなかで、会社を売却したあとの経営者自身はどうなるのかと疑問に思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。
このコラムでは、M&Aによって会社をご売却した後の経営者自身にまつわることを紹介していきます。M&Aによる会社売却のメリットや注意点、進め方のポイントもまとめていますので、初めてM&Aを検討する経営者の方は最後まで読み進めていただき、参考にしてください。
目次
1. M&Aにより会社を売却すると、経営者はどうなる?
M&Aによって会社を売却した後、経営者はどうなるのでしょうか。経営者の今後の選択肢としては、主に以下の4つがあります。
・役員として残る
・顧問として関わる
・引退する
それぞれどのようなことが起こりうるかを説明していきます。
1-1. 代表として残る
M&Aによって会社を売却した後、その経営者が代表取締役や社長としてそのまま譲渡企業に残るケースがあります。
中小企業の場合、経営者が事業の全てを取り仕切っていたり、取引先との関係性を保つ上で欠かせなかったりすることがあります。そのようなケースでは、経営者が退いてしまうと事業の運営に支障が生じてしまいます。譲受企業側もその事態を重んじて、経営者にそのままのポジションで残留してほしいと考えることがあります。
なお、会社を売却しているため従前のようなオーナー経営者ではない状況であることは理解しておく必要はあります。
1-2. 役員として残る
M&Aによって会社を売却した後、その経営者が取締役として会社に残るケースもあります。この理由としては、代表取締役や社長として譲渡企業に残るケースとほぼ同じです。
譲受企業の判断により、代表取締役には親会社から送られた人物が就くものの、事業を取り仕切ったり、取引先との関係性を維持したりする事業責任者という役割で、経営者が取締役として会社に残ることがありえます。
なお、代表として残る場合、役員として残る場合の双方に言えることですが、特に期限を決めずに残留するケースと、期限を決めて残留するケースが考えられます。期限が決まっている場合には、その間に事業運営にまつわることや取引先との関係性などを引き継ぐ必要が生じます。
1-3. 顧問として関わる
M&Aによって会社を売却した後、その経営者が顧問として会社に関わるケースもあります。譲受企業の目的としては、経営や事業の引き継ぎに時間がかかるため、一定期間、引き継ぎ業務や事業のフォローを行ってもらいたい、というものです。
M&A後の経営統合の進捗は、M&Aの成否を分ける重要なものとして位置付けられます。そのため、経営統合のプロセスへの協力を目的に、譲受企業側が一定期間、売却企業側の経営者に顧問として会社に残ってもらうことを求めることがあります。
1-4. 引退する
M&Aによって会社を売却した後、経営者がリタイアを決めている場合は、会社に残ることなく引退となります。M&A後にやりたいことをすでに決めている場合、経営者の年齢に関係なく引退するケースも考えられます。
ただし、経営の引き継ぎや事業のフォロー、経営統合のプロセスへの協力を買収企業側から望まれたり、それらを行うことが会社売却の条件に含まれていたりする場合は、会社の売却後すぐに引退できない可能性があります。経営者としての役割が終了するまでの一定期間、その業務に当たる必要があります。
2. M&Aにより会社を売却する経営者のメリットは
後継者がいない中小企業の経営者の場合、M&Aによる会社売却によって後継者の問題を解決できる可能性があります。M&Aによる事業承継が実現し、譲受企業が新たな経営者となるため、譲渡側の経営者の不安が解消されることにつながるでしょう。
M&Aを通して得られる譲渡対価を経営者個人の創業者利益として確保できるという点もメリットとして挙げられます。もし会社を廃業するという選択肢を取る場合は、事業の清算に伴うコストや税の負担によって個人資産が減少するリスクも生じます。
また、M&Aを実施することによって、金融機関からの借入に際して負っている個人保証から解放される可能性があります。事業の赤字など自力で保証債務を返済できない場合は、M&Aによる承継が、個人の財産の保全として機能する手段になる可能性があります。
3. M&Aにより会社を売却したあとはどうなる?
M&Aによって会社が売却された後はどうなるのでしょうか。ここでは代表的なM&Aのスキームごとの特徴を簡潔に整理します。
3-1. 株式譲渡の場合
株式譲渡は、中小企業のM&Aで最も一般的なスキームとされています。譲渡企業の株式が譲受企業に移転することで、法人格や会社自体はそのまま存続します。株主(オーナー経営者)が交代し、新たな経営体制へ移行するのが特徴です。従業員の雇用契約や取引先との契約も基本的に引き継がれます。
3-2. 事業譲渡の場合
事業譲渡は、会社の一部または全部の事業、資産、負債を個別に選択して譲渡する手法です。譲渡会社そのものは存続しますが、譲渡した事業は譲受企業に移ります。株主や経営者は変わらない一方、残った事業がない場合は清算や解散に至ることもあります。従業員の移籍には一人ひとりの同意が必要です。
3-3. 会社分割の場合
会社分割は、会社が持つ事業や権利義務を新会社または既存の他社に包括的に承継させる手法です。新設分割では新会社を設立して事業を移転し、吸収分割では既存の譲受会社に事業を移転します。譲渡元の会社も法人格としては存続しますが、事業規模や内容は分割後に変化します。会社分割では従業員や雇用関係が包括的に移転します。
4. M&Aによる会社売却の注意点
M&Aによる会社の売却では、主に以下の点に注意が必要です。
・【従業員】モチベーションが低下する可能性がある
・【会社】統合プロセスにおいてトラブルが起こる可能性がある
4-1. 【経営者】喪失感が生まれる可能性がある
M&Aによる会社売却後、経営者の心理状態として喪失感、端的にいえば寂しい気分になることがあるとされています。
経営者の責任は重大で日々大変なことがありうる一方、その立場と仕事内容に誇りやプライドを持つこともできます。M&Aによって、それらが突然なくなってしまい、喪失感を覚えることがあります。
前述のように、経営の引き継ぎ、事業のフォロー、経営統合への協力などで、当分は会社に残るケースが少なくないので、自社を売却したあとも役員や顧問として残り続ければ、喪失感を和らげることができるかもしれません。
4-2. 【従業員】モチベーションが低下する可能性がある
M&Aによる会社売却後、従業員のモチベーションが下がってしまうリスクには注意が必要です。従業員のモチベーションの低下は、愛社精神や貢献意欲の低下と連動することが少なくありません。M&Aによって気持ちが後ろ向きになってしまった場合は、退職してしまうこともあるかもしれません。
従業員のモチベーション低下には職場環境や業務システムの変更のほか、慕っていた経営者がいなくなってしまう、などが考えられます。人材の流出は譲受企業も望まないことが多く、売却側、買収側の双方が協力し、従業員のモチベーション低下を招かない施策を取ることが必要になります。
4-3. 【会社】統合プロセスにおいてトラブルが起こる可能性がある
M&Aによる会社売却後に行われる経営統合は、双方にとってM&Aの成否を左右する重要なプロセスです。このプロセスが不十分であるとトラブルが起こる可能性があります。
経営統合への準備は、M&Aの準備フェーズから着手しておくことが重要です。M&Aのプロセスを通して、譲渡・譲受企業双方が詳細情報を開示する際に、経営統合を進めるにあたってリスクとなりえる要因を事前に抽出できるからです。早期の段階から経営統合への意識を高めておくことで、実行の段階における施策をスムーズに進めることができます。
5. 経営者がM&Aによる売却を成功させる3つのポイント
経営者がM&Aによる売却を成功させるポイントとして以下の3つを説明します。
・売却を見据えた準備を早い段階で行う
・信頼できる専門家のサポートを受ける
5-1. 会社を売却する目的を明確に決める
経営者がM&Aによる会社売却を成功させるポイントの1つは、会社を売却する目的を明確にすることです。M&Aによる目的が明確に定まっていないと、長期における取り組みのなかでM&Aの実施自体が目的化してしまい、本来目指すべき目的がおろそかになる恐れがあります。
後継者問題を解決したいのか、事業を整理したいのか、経営者ご自身の人生を豊かにしたいのか、など、M&Aの目的は様々です。また、会社売却の目的は1つとは限らないでしょう。その場合、複数の目的に優先順位をつけておくことで、その後の交渉において、妥協点や主張点のメリハリをつけられるでしょう。
5-2. 売却を見据えた準備を早い段階で行う
M&Aによる会社売却には、準備から契約まで1年前後が必要になります。短期間で成約にいたるケースもありますが、基本的には時間がかかるものだということを意識して、早くから準備に着手することは有効だとされています。早期の準備は自社にとって適したタイミングで会社売却を行う判断にもつながります。以下のコラムもご参考にしてください。
【初心者必見】M&A成約までのスケジュールを段階ごとにわかりやすく解説!
6-3. 信頼できる専門家のサポートを受ける
M&Aに馴染みのない経営者が会社の売却を成功させるためには、信頼できるM&Aの専門家のサポートを受けることも重要です。M&Aをサポートする機関にはM&A仲介会社、金融機関、税理士法人、会計事務所、弁護士法人などがあります。以下のコラムも参考に、それぞれの機関の特徴や選び方を知っていただきたいです。
7. まとめ
M&Aによる会社売却は、後継者不在の解決や従業員の雇用継続といったメリットをもたらしますが、その一方で、M&Aのスキームごとに会社の存続形態や事業承継の方法が異なり、経営者自身の立場や役割の変化にも影響します。
初めてM&Aを検討する経営者にとって重要なのは、メリットだけでなく注意点も含めて全体像を理解し、自身の将来像と照らし合わせながら最適な進め方を選択することです。本コラムが、その判断の一助となれば幸いです。
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