M&Aは準備から成約まで1年前後の期間がかかると言われております。また、M&Aには多くの利害関係者が登場するため、スケジュールを綿密に立て、登場する方々全員が共通のスケジュールを理解したうえで様々な問題に対応しなければなりません。今回は、M&Aのスケジュールについて段階ごとにわかりやすく解説したいと思います。
M&Aは、事業承継や企業の成長の方法として効果的な選択肢の1つです。しかし、相手企業の選定や譲渡企業を調査するデューデリジェンスの実施など、成約までの煩雑なスケジュールをこなす必要があるため、自社単体では難しいと考える方が多いです。
そこで今回は、M&Aのスケジュールを段階ごとにわかりやすく解説します。M&Aをスムーズに進めるためのコツも解説するため、M&Aのスケジュールについて気になる人は参考にしてください。
目次
1. M&Aを進める前に把握すべきこと
M&Aを成功させるためには、事前準備が重要です。まず、成約に至るまでの一般的な期間と、成功の鍵を握る相手企業とのマッチングについて正しい知識を身につけましょう。
1-1. M&Aは成約までにかかる期間は1~2年
M&Aは成約に至るまで、1年前後の期間を要するのが一般的です。企業の規模によっても異なりますが、小規模な企業間のM&Aであっても2~3ヶ月かかります。これは、M&Aが成約するまでに、自社に合う相手企業の選定や、条件交渉、譲渡企業の実態を詳細に把握するデューデリジェンスなど、複雑なプロセスを経る必要があるためです。
さらに、条件交渉が難航すれば成約までの期間がさらに伸びます。M&Aの成約では、期間がかかることを想定したうえで余裕のあるスケジュールを組んでおくのがよいかと思います。
1-2. M&Aにおいて最も重要な項目は「相手企業とのマッチング」
M&Aの成功において、最も重要なのは適切な相手企業とのマッチングです。M&Aを実施する目的に合致した企業を選べなければ、成果は期待できません。例えば、M&Aにより後継者不足の解消が目的である場合、自社の事業内容や企業文化に納得していない譲受企業とM&Aを実施すると、統合したあとに従業員の離職といった失敗の可能性が高まるでしょう。そのため、相手企業と自社の事業内容や経営理念、企業文化などの親和性を慎重に調査する必要があります。
2. M&Aの成約までのスケジュール(流れ)
M&Aの準備から成約するまでに、「準備」「交渉」「契約」の3つのフェーズがあります。M&Aを成功させるには、各フェーズで抜けがないように進めることが大切です。ここでは、M&A成約までのフェーズごとの流れについて解説します。
2-1. M&Aの目的の設定や仲介会社に依頼する「準備フェーズ」
準備フェーズでは、M&Aを成功させるのに不可欠な事前準備を行うステップです。具体的には以下のような項目があります。
- M&Aの目標を設定する
- M&Aの仲介会社に依頼する
ここでは、それぞれについて詳しく解説します。
2-1-1. M&Aの目標を設定する
M&Aを検討する際、まず具体的な目標を明確にすることが重要です。M&Aは、企業にとって大きな変化であり、多くの労力を要するため、明確な目標設定なくして着手することは避けるべきです。
譲渡企業の大きな目標としては、事業承継や企業再生などが挙げられますが、これらを具体的に設定する必要があります。
例えば、事業承継であれば「大手会社の子会社となり、自社と従業員の成長の機会を与える」といった目標が考えられるでしょう。ほかにも、企業再生であれば「ファンド(投資信託)や大手企業に自社を売却し、その傘下で企業再生を狙う」という目標が考えられます。
このように、M&Aを検討する際にはM&Aを実施する目標を明確に設定しましょう。
【コラム】M&Aをする目的をもっと掘り下げてみませんか
私、M&AworksでM&Aアドバイザリー業務をしております五月女と申します。このコラムでは、M&Aの目的について、もう少し掘り下げてみたいと思います。先ほどの文章では、M&Aの目的について、『事業承継』や『企業再生』が目的と表現しております。これ自体は間違いではないのですが、日々、M&Aのご相談をいただく現場の者として、もう少し落とし込むことが大切なのでは、と考えます。『事業承継』という目的をセットした場合を想定し、掘り下げて説明していきます。
後継者不在等の理由により、中長期的に事業の継続が危ぶまれる場合、事業承継を目的としたM&Aはとても有効と言えます。これにより、事業は継続し、雇用も守れ、お客様や様々な方々に対して、責任を果たすことができる。それ自体は非常に素晴らしいのですが、私たちは、いつも、もう一歩踏み込んでのご相談を賜っています。つまり、事業承継という目的ですら、大きな目的のための『一つの手段』にしか過ぎない、ということです。
事業承継をするのは、先ほどの通り、事業の継続をすべきであるから、という大義に立って考えられています。ですが、今一度立ち止まっていただきたい。そもそも本当に事業を継続すべきなのでしょうか。M&A以外にも選択肢はないのでしょうか。第三者への譲渡ではなく、従業員への譲渡はできないのでしょうか。様々な検討手段があるなかで、M&Aアドバイザーと話をすると、『目的を達成するためには、M&Aしかない』という論法になりがちです。
私たちが申し上げたいことは、あくまで『M&Aは有効な経営手法のひとつにしかすぎず、また、事業承継ですら、小さな目的に過ぎない』ということです。
では、大きな目的とはなんなのでしょうか。
それは、『人生を豊かにする』ということだと思います。青臭い表現ですが、これこそが最も大事な目的です。会社を譲渡されるオーナーは、今までどんな人生を歩まれてきたのでしょうか。様々な岐路において、どんな判断をされ、どのように過去を振り返っていらっしゃいますか。会社の譲渡という一つの大きな可能性を検討される上で、何を望んでいらっしゃるのでしょうか。大切な人は? ご家族との関係は? 趣味は? 世界で行きたい国は?
このように、人生を豊かにするという目的を大切にすると、M&Aをする意味がはっきりと明確になります。会社を譲渡する際には、“マリッジブルー”と表現される、なんとも言えない罪悪感や背徳感に見舞われることが多いです。しかしこの大きな目的をセットすることで、前向きにM&Aに取り組むことができます。
私たちは、こうしたことをとても大切にして、日々のお客様とのコミュニケーションを取らせていただいています。もしこの文章をお読みいただき、何かお感じになられることがございましたら、どんなことでも結構でございますので、お問い合わせ頂けましたら幸いです。
最後になりますが、M&Aを通じて(M&Aではなくとも)、皆様の人生が、より豊かになられることを願っております。
2-1-2. M&Aの仲介会社に依頼する
専門的な知識を必要とするM&Aの実施にあたり、M&A仲介会社への依頼は欠かせません。M&A仲介会社は、相手企業の選定や条件交渉、各種契約の締結など、高度な専門性が求められる領域をサポートします。
ただしM&Aの仲介会社には、依頼先の企業の利益が最大限発揮するためにサポートする「アドバイザリー方式(譲渡企業側と譲受企業側それぞれにアドバイザーをつける)」と、譲受・譲渡企業の間に中立的な立場で入り、双方の利益がバランスよく発揮できるようにサポートする「仲介方式」の2つがあります。そのため、自社のM&Aの目標に合った方式を選ぶことが大切です。
■関連URL:「M&Aにおけるアドバイザリー契約とは? 初心者向けにわかりやすく解説します」
2-2. M&Aの内容の決定や条件交渉などを行う「交渉フェーズ」
交渉フェーズでは、M&Aの具体的な内容を固め、相手との条件を詰める重要なプロセスです。具体的には、以下のような項目があります。
- 簡易的に自社の情報をまとめる「ノンネームシート」を作成する
- 企業価値を算出する
- M&Aのスキームを構築する
- お相手の候補先をリスト化する
- 相手企業とトップ面談を実施する
- 基本合意書を締結する
- デューデリジェンス(譲渡企業の調査)を実施する
ここでは、それぞれの項目について詳しく解説します。
2-2-1. 簡易的に自社の情報をまとめる「ノンネームシート」の作成
M&Aの交渉フェーズでは、まず譲渡企業の情報をまとめた「ノンネームシート」を作成します。ノンネームシートとは、社名を伏せた状態で企業概要、業績推移、事業内容などを簡潔にまとめた資料のことです。譲受企業の関心を惹く目的で作成します。
譲渡企業は、M&A仲介会社に紹介された譲受企業の候補に対して、ノンネームシートを活用しながら、自社とのM&Aを提案します。自社に合う譲受企業が見つかったら、譲渡企業について詳細な情報が記載された企業概要書を開示する流れです。
2-2-2. 企業価値を算出する
企業価値の算出は、その後の買収価格を決めるための基礎となる重要な項目です。
企業価値の算出には、主に以下の3つの方法が用いられます。
企業価値の算出方法 | 特徴 |
---|---|
コストアプローチ | 譲渡企業の純資産の価値を基準に企業価値を算出する |
インカムアプローチ | 譲渡企業の収益力を基準に企業価値を算出する |
マーケットアプローチ | 譲渡企業と同業で上場している類似企業の株価を参考に企業価値を算出する |
譲受企業の候補と交渉する前に自社の企業価値の金額を算出しておけば、このあとの交渉をスムーズに進められるでしょう。
■関連URL:【入門編】中堅・中小企業のオーナーが押さえたいM&Aにおける企業価値の算定方法
2-2-3. M&Aのスキームを構築する
M&Aには、目的や企業価値の金額などに応じて、最適なM&Aのスキームを選択する必要があります。M&Aのスキームの代表的な種類は以下の通りです。
M&Aスキーム | 統合方式 |
---|---|
株式譲渡 | 譲渡企業は譲受企業の子会社となる |
株式交換 | |
株式移転 | 複数の企業が新設された会社の子会社となる |
吸収合併 | 譲渡企業を譲受企業がすべて吸収する |
新設合併 | M&Aのすべての対象企業が消滅し、新設する会社に承継する |
吸収分割 | 譲渡企業の一部の事業を譲受企業が承継する |
新設分割 | 譲渡企業の事業の一部を新設する会社に承継させる |
事業譲渡 | 譲渡企業の事業一部またはすべてを譲受企業に承継する |
第三者割当増資 | 譲受企業が譲渡企業に出資する |
上記のようにM&Aスキームによって、M&A実施後の譲受・譲渡企業の立ち位置が異なるため、自社に対しての影響や当事者間の税負担などを加味して手法を選ぶ必要があります。なお、M&Aスキームは、交渉を進めるなかで変更することが可能です。
2-2-3. お相手の候補先をリスト化する
M&Aのお相手候補を一定の条件で選定し、リストアップします。このリストの作成により、お相手候補を明確にし、効果的なアプローチを行うことが可能になります。リストアップの際は、売上高、所在地、事業内容など大まかな情報によって絞り込みをします。その後、検討の可能性がより高く、譲渡を検討する企業のニーズに合ったお相手候補をさらに絞り込んでいきます。
2-2-4. 相手企業とトップ面談を実施する
相手企業との本格的な交渉に入る前に、トップ(経営者)同士の面談を実施します。トップ面談では、経営に対する考え方やM&A実施後のビジョンなどを確認するのが目的です。
M&Aは経営陣の強い意思決定が重要であり、譲受・譲渡企業のトップ同士での認識共有が欠かせません。面談を通じて、企業文化の違いや経営理念の考え方を改めて確認できます。トップ同士の人柄や相性も、M&A成功の大きな鍵となるでしょう。
2-2-5. 基本合意書を締結する
トップ面談を経て、M&Aの基本的な条件や方針が固まれば、次に譲受・譲渡企業で基本合意書を締結します。基本合意書とは、譲受企業と譲渡企業の間で、M&Aの基本条件に関する合意事項を書面化した書類のことです。
具体的には、株式の取得比率や対価の支払い方法、デューデリジェンスの期間、秘密保持条項など、M&Aの大まかな枠組みを定めます。基本合意書には法的拘束力をもつ項目もあるため、内容は慎重に確認しましょう。
2-2-6. デューデリジェンス(譲渡企業の調査)を実施する
M&Aを行ううえで欠かせない重要な工程が、デューデリジェンスです。デューデリジェンスとは、譲渡企業の実態を入念に調査し、リスクや課題を洗い出すことを指します。調査対象は、財務状況や、事業内容、人材状況、法令遵守状況など、企業の全般にわたるため、調査に時間をかけるケースが多いです。
譲受企業は、デューデリジェンスを通じて譲渡企業を多角的に分析し、M&A実行の可否を最終判断します。
また、デューデリジェンスは財務や税務などの専門知識を有するため、専門家に依頼することが一般的です。デューデリジェンスの結果次第では、買収価格の値下げ交渉をされる可能性もあり、M&A成立の重要な過程となります。
2-3. 最終的な契約の締結や統合する「契約フェーズ」
契約フェーズは、最終的な条件交渉からM&Aの成立まで行うステップです。具体的には、以下のような項目があります。
- 最終的な条件を交渉する
- 最終契約を締結する
- クロージングを行う
ここでは、それぞれについて詳しく解説します。
2-3-1. 最終的な条件を交渉する
譲受・譲渡企業は、デューデリジェンスの結果を踏まえ、M&Aの最終条件について両社で交渉を行います。交渉項目は、株式の取得比率や対価の総額、従業員の雇用、ブランドの扱いなどさまざまな項目があります。
デューデリジェンスで判明したリスクは、価格の減額要求や是正措置の要求など、具体的な対応策が交渉されます。
2-3-2. 最終契約を締結する
最終的な条件の合意に至れば、正式な最終契約書の締結へと進みます。最終契約書は、基本合意書の内容を具体化したもので、合意すれば変更できない法的拘束力をもつため、慎重な対応が必要です。同契約書には株式の取得比率、対価の支払い時期や方法、人事、資産の取り扱いなど、M&A後の経営統合に関する細かい規定が盛り込まれます。
契約書の条文を徹底して確認し、契約内容における認識の違いがないか最終チェックを行い、最終契約の締結をもって、M&A手続きの大枠が完了することになります。
2-3-3. クロージングを行う
最終契約締結後、実際の株式の受渡しや対価の支払いを行う手続きがクロージングです。クロージングでは、譲受企業と譲渡企業の担当者が集まって、正式な手続きを行います。
対価の支払い方法は現金のほか、自社株式の交付などさまざまな形態があります。関係当局への届け出も行われたのちに、実質的な経営統括が開始されることになるでしょう。クロージングを経て、M&Aが正式に完了したことになります。
3. M&Aをスムーズに進めるための3つのコツ
M&Aをスムーズに進めることで、業界の動向や市場の変化に左右されるリスク、さらには機密情報の漏えいといったリスクを最小限に抑えられます。M&Aをスムーズに進めるには、以下の3つのポイントを押さえることが大切です。
- 事前にM&Aのスケジュールのシミュレーションを行う
- 事前に交渉時の条件の優先順位をつける
- 事前にPMI計画を立てる
ここでは、それぞれのポイントについて詳しく解説します。
3-1. 事前にM&Aのスケジュールのシミュレーションを行う
M&Aを円滑に進めるためのポイントの1つが、事前にM&Aスケジュールのシミュレーションを行うことです。M&Aのプロセスは複雑かつ多くあるため、着手する前から各プロセスの流れや所要期間を想定しておく必要があります。
シミュレーションでは、企業価値算定、デューデリジェンス、条件交渉など主要な段階ごとに、目安の期間を設定しましょう。同時に、交渉が難航した場合の遅延リスクにも配慮が求められます。事前のシミュレーションにより、プロセス全体の見通しが立てやすくなり、スケジュール管理もしやすくなるでしょう。
3-2. 事前に交渉時の条件の優先順位をつける
M&Aの交渉では、双方の主張がぶつかり合うことも想定できます。そこで重要となるのが、事前に交渉条件の優先順位を明確に定めておくことです。
例えば、自社にとって最優先事項は事業承継か、従業員の雇用かなどをあらかじめ検討しておきます。優先度の高い条件については、強く主張する一方で、下位の条件であれば妥協の余地を残すことも大切です。条件の優先順位を決めておけば、交渉の際、自社の主張をより明確に伝えられるでしょう。
3-3. 事前にPMI計画を立てる
M&Aを成功に導くためには、成約後のPMIに向けた事前準備が必要です。PMIとは、Post Merger Integration(ポスト・マージャー・インテグレーション)の略で、M&A成約後の統合を円滑に進めるための活動を指します。PMI計画とは、この統合プロセスの具体的な作業工程や対策をまとめた計画のことです。
PMI計画では、システム統合や人員の配置転換、業務フローの標準化など、統合に伴うさまざまなリスクとその対応策を事前に洗い出しておきます。また、スケジュールや責任者の明確化、モニタリング体制の構築なども重要な要素です。
PMI計画を適切に立案できれば、M&A成約後の移行期間を最小限に抑え、効率的な統合作業が可能になるでしょう。
4. M&Aをスムーズに進めるためにM&A worksをおすすめできる理由
M&Aworksでは、M&Aの検討・準備段階からクロージングIまで徹底的にサポートいたします。全体的なM&Aのサポートを行う担当者に加えて、税務、財務、法務、ビジネス、管理など5人以上のチーム体制によるサポートで、納得のいくM&Aを実現することが可能です。
M&Aを実施するのが目的とならず、お客様と真っ向から向き合い、お客様にとっての本当の成功を実現いたします。
5. まとめ
M&Aは、準備から成約に至るまでに1年前後の期間を有します。この長い期間を経てM&Aを成功させるには、事前にスケジュールについて把握しておくことが大切です。M&Aのスケジュールは、目標の設定やM&A仲介会社に依頼する準備フェーズから始まります。次にM&Aの内容の決定や条件交渉を行う交渉フェーズ、最終的な契約を行う契約フェーズへと進みます。
こうしたフェーズを抜けなくスムーズに進めるには、事前にスケジュールのシミュレーションをしたり、条件に優先順位をつけたりなどの事前準備が大切です。M&Aを成功させるためにも、この記事を参考にM&Aのスケジュールについて確認しておきましょう。
「M&Aworks」では、各プロセスで専門的な視点によるアドバイスやサポートを行いますので、M&Aを検討している人は、M&Aworksにご相談ください。
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