M&Aにおける株主への対応は? M&Aを進めるために把握すべきことを紹介

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執筆者 五月女 圭介

米国大学院卒業後、ITベンチャー企業及び大手事業会社にて、経営戦略や新規事業開発等に従事。M&A後の業務統合に深く関わり、譲渡企業の経営者とともに成長戦略立案や事業立て直しに携わる。企業成長におけるM&A活用の重要性を強く実感し、M&A 業界への挑戦を決意。 理念ファーストのM&A works代表の安藤に強く共感し参画。

M&Aにおける株主への対応は? M&Aを進めるために把握すべきことを紹介

M&Aを検討するうえで、自社に合った相手企業の選定や、従業員の雇用など、対応すべき課題は少なくありません。そのなかの1つとして挙げられるのが、自社の株主への対策です。M&Aは、譲渡・譲受企業だけでなく、それぞれの株主にもさまざまな影響があります。そのため、M&Aを実施することに異議を唱える株主も出てくるでしょう。

この記事では、M&Aによる株主への影響やメリットなどについて解説します。また、M&Aで株主が懸念すると想定される点やM&Aを成功させるための株主対策についても解説するため、M&Aを検討している経営者は、ぜひ参考にしてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の法的・税務的助言を行うものではありません。具体的な案件については、弁護士・税理士などの専門家にご相談ください。

1. M&Aにおいて株主が行使できる権利

株主は、「自益権」と「共益権」という2つの権利を行使できます。
自益権とは、株主個人の経済的な利益に直結する権利です。代表的な権利には、配当金を受け取れる剰余金配当請求権や、企業における余剰金から株主が配当を受け取れる残余財産分配請求権などがあります。株主は自身が持つ株式に応じて経済的な利益を得る権利を有しています。

一方、共益権は、株主全体の利益に関わる権利を指します。代表的なものが株主総会における議決権です。株主は、この議決権を通じて、M&Aを含む重要な意思決定に参加し、企業経営を監視・是正する権限を持っています。M&Aを実施する企業の経営者は、これらの株主権を十分に理解したうえで、適切に対応しましょう。

2. 【パターン別】M&Aにより自社を売却した場合の株主への影響

M&Aを通じて自社を売却する際の株主への影響は、売却のパターンによって異なります。ここでは、全株式を売却する場合と株式の一部を売却する場合の2つのパターンに分けて、それぞれの影響を詳しく見ていきましょう。

2-1. パターン1:全株式を売却する

企業がM&Aで全株式を売却する場合、株主は保有株式をすべて手放し、株主としての地位を完全に失います。

株主総会における議決権の行使や、配当金の受領、残余財産の分配請求といった、当該会社の株主としての権利を失うのが特徴です。M&Aの結果、保有株式をすべて売却することになった株主は、企業の経営に関与できなくなり、また自己の出資に基づく経済的な利益を得ることもできなくなります。

2-2. パターン2:株式の一部を売却する

株式の一部だけを売却した場合、株主としての立場を一部維持できます。具体的には、株主総会での議決権は保持され、配当金の受領や残余財産の分配請求といった経済的権利も継続して行使することが可能です。

ただし、売却した株式分だけ、議決権の割合や配当金、残余財産の分配金額は減少することになります。この場合の株主は、株式の一部を手放しつつ、株主としての一定の立場を維持できるというわけです。

3. M&Aにより自社を売却した場合の株主の4つのメリット

M&Aによる売却は、株主にとって大きな転機となり得る重要事項です。ここでは、売却が株主にもたらす4つの主なメリットを解説します。

3-1. 売却益が得られる

M&Aで自社を売却した場合、株主にとっての大きなメリットの1つは、売却益を得られることです。企業価値が高く評価されることで、株主は自身の保有株式を高値で換金できます。

売却益は、株主にとって経済的なメリットとなりうるでしょう。大株主にとっては、M&Aによる株式の売却が、将来の資産形成や生活設計に役立つ可能性があります。

3-2. 会社を存続させやすい

会社を売却してもすべての株式を売却しない株主も存在します。こうした株主にとって、会社の存続が保証される点はメリットの1つです。自社の事業や雇用が引き継がれれば、今後も企業が継続していくことが期待できます。経営者交代による事業の混乱や破綻を避けられるのも大きなメリットでしょう。

出資した企業が存続して成長すれば、株式の価値の上昇につながります。株主にとって、自身が保有する株式の価値が上がるというのは大きなメリットといえるでしょう。

3-3. 会社の経営から退く

M&Aにより自社を売却した場合、株主によっては経営から手を引く選択ができるというメリットもあります。長年にわたり経営に携わってきた株主にとって、M&Aは自身の経営責任から解放される1つの機会となるでしょう。
特に、高齢の株主にとっては、株式の売却と引き換えに経営から撤退できるのは大きなメリットです。M&Aによって株主は、経営者としての役割から解放され、自身のライフステージに合わせた新たな人生設計を行えるようになるでしょう。

3-4. 自社のさらなる成長に期待できる

M&Aによって自社が売却されたあとも、株主には自社のさらなる発展を期待できるというメリットがあります。譲受企業のリソースや経営ノウハウを活用することで、自社の事業が一層強化され、成長が加速することに期待できるためです。

先述した通り、会社を売却後も一定の株式を保有する株主は存在します。そのため、出資した企業が新たな活力を得て、より高い企業価値を実現できることは株主の保有資産も増大する可能性があります。これもM&Aによる大きな恩恵の1つといえるでしょう。

4. M&Aにより自社を売却した場合の株主の懸念事項

M&Aによって自社を売却した際、株主にとって以下のような懸念事項が生じる可能性があります。

・経営方針の変更により自社ブランド・社風が失われる
・株式の配当の減少・支払い停止
・議決権の喪失

経営方針が変わることで、自社のブランドや社風が損なわれる可能性があります。譲受企業の方針に沿って社名変更や組織改編、従業員の配置転換があれば、自社が長年培ってきた独自のブランドイメージや社風が変容してしまうことが考えられるでしょう。
また、配当の減少や支払い停止も懸念材料となり得ます。譲受企業の配当方針に依存する形となるため、自社株主への配当水準が低下する可能性もあります。

さらに、議決権の喪失に伴う発言力の低下も株主にとって大きな懸念事項です。企業運営に関与する機会が失われ、意見反映の機会が制限されてしまうことが考えられるでしょう。このような理由から、M&Aに反対する株主が現れる可能性は十分に考えられます。

5. 株主の反対によりM&Aが破談しやすい2つのケース

M&Aをスムーズに進行させるには、株主の同意を得ることが欠かせません。しかし、特定の状況下では、株主の反対によりM&Aが破談しやすくなります。
ここでは、株主の反対によりM&Aが破談しやすい2つのケースを解説します。

5-1. 株式が分散しているケース

M&Aが成功するかどうかは、株主によって大きく左右されます。特に、株主が分散しているケース(経営者が100%の株式を保有していない状態)では、M&Aの成立が難しくなる可能性があるでしょう。

株主が議決権の1/3超を保有している場合、特別決議(M&Aの承認など)を単独で否決できます。また、2/3以上の議決権を確保している場合、特別決議の単独で可決可能です。そのため、株主が分散している場合は、大株主以外の株主の反対意向を掌握しにくく、2/3の賛成を得るためには多数の同意を得る必要があります。

このように、株主の株式保有が分散している企業では、M&Aを阻止する株主の存在によって、取引が頓挫するリスクが高まるのが特徴です。M&Aの実施を検討する際は、このような株主構造上の課題に細心の注意を払う必要があるでしょう。

5-2. 株主との人間関係が悪いケース

経営陣と株主との人間関係も、M&Aの成否を左右するポイントの1つです。株主との関係が良好でない場合、M&Aに反対する株主の説得が困難になる可能性があります。経営陣と株主の間に溝がある状況では、M&Aの必要性や意義について、株主を理解させるのが難しくなるためです。
さらに、株主との人間関係が悪い企業では、株主総会での議決権行使において、株主の協力を得られにくくなる可能性があります。このような事態を避けるためにも、経営者は常に株主との良好な関係を構築しておくことが重要です。経営者は、日頃からコミュニケーションを密に取り、相互理解を深めておく必要があるでしょう。

6. M&Aで株主総会が必要なケースとは

M&Aを進める過程で、株主総会の開催が必須となるケースと、そうでないケースがあります。ここでは、その両方の状況について解説します。

6-1. M&Aで株主総会が必要なケース

M&Aにおいて株主総会を開催する必要があるケースは、会社法上の重要な機関決定が伴う場合です。具体的には、株式交換・移転による完全子会社化、合併、会社分割、大規模な事業譲渡などが該当します。これらは会社の基本構成に大きな変更を及ぼすため、特別決議(株主の承認)が必要です。

このように、会社の基礎を揺るがす大規模な構造変更には株主の意思表示が求められます。株主総会の要否は、M&Aの方式と対象資産の内容によって判断する必要があるでしょう。

6-2. M&Aで株主総会が不要なケース

M&Aにおいて株主総会を開催する必要がないケースとして、略式事業譲渡と簡易事業譲渡があります。

略式事業譲渡は、譲受企業が譲渡企業の議決権の90%を超えて保有している場合に適用される制度です。事業部門の資産・負債を一括で譲渡するため、手続きを簡略化できます。

一方の簡易事業譲渡は、譲渡対象の資産の帳簿価格が譲渡会社の総資産額の1/5を超えない場合の事業譲渡です。会社全体に対する影響が小さいため、株主総会での承認が不要となります。

7. M&Aにおける主な株主対応を紹介

M&Aを成功させるためには、株主との関係性の管理が欠かせません。
ここでは、そのための具体的な対策を3つ紹介します。

7-1. 株主構成を確認する

M&Aを検討する際には、まずは自社の株主構成を確認することが重要です。自社の主要株主が誰であるか、支配権の状況はどうなっているかを正確に把握する必要があります。
例えば、自社の大株主が経営陣以外である場合や、自社の現経営陣が多数の株式を保有している場合など、さまざまなケースがあるでしょう。

このように、自社の株主構成や支配権の実態によっては、M&A成立への大きな障害にもなりかねません。M&Aの初期段階でこうした株主構成を正確かつ詳細に把握すれば、M&Aに反対しそうな株主やM&A実施後の影響可否なども事前に確認できるでしょう。

7-2. 株主の株式保有数と持ち株比率を確認する

M&Aでの株主構成の確認に加えて、個々の株主の具体的な株式保有数と持ち株比率を正確に把握しておくことも重要です。株主ごとに、保有株式の数量と発行済株式総数に占める割合を正確に調べる必要があります。

例えば、大株主の持ち株比率が20%を超えている状況であれば、その大株主の合意が得られない場合、M&Aの成立は難しいと予想されます。一方、大株主の持ち株比率が10%程度と低い場合、ほかの一般小株主の賛成をまとめやすくなるでしょう。

このように、株主ごとの具体的な持ち株比率を正確に把握することで、M&A成立に必要な支配権を確保する見通しを立てられます。持株比率の確認は、M&A成功の確率を高めるうえでも無視できない重要な要素といえるでしょう。

7-3. 名義株や譲渡制限株式に対しての対策を実施する

企業には、名義株や譲渡制限株式が存在するケースがあります。名義株とは他人名義の株式のことで、譲渡制限株式は株主が自由に譲渡できない株式を指します。これらは表向きの株主構成と実質的な支配関係が異なることがあるため、M&Aに際して対策が必要です。

具体的には、名義株の実質的な所有者を突き止める調査を実施します。公開情報やヒアリングで実質的な所有者を特定しましょう。また、譲渡制限株式の場合は、譲渡制限の内容を確認し、株主から譲渡制限の解除同意を取り付けることが必要です。

こうした名義株や譲渡制限株式について、自社の実態を正確に把握し、適切な対応を実施することがM&A成立には欠かせません。事前の十分な調査と対応が鍵を握っているといえるでしょう。

8. まとめ

M&Aは株主の権利や影響を大きく受けるため、成功させるには株主構成の確認や株式保有比率の把握、名義株や譲渡制限株式への対策など、複雑な課題に対処する必要があります。株主との信頼関係を保ちながらスムーズにM&Aを進めるには、専門的な知識と経験が欠かせません。当社では、M&Aの全体像や進め方に関するご相談をいつでも承っています。ご希望の条件に沿ったM&Aを実現できるよう、専門家と連携しながらサポートいたします。

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