M&Aを行う際のストックオプションはどうなる?取り扱いなどを分かりやすく解説

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執筆者 長田和憲

明治大学を卒業後、証券会社に入社。主に中小企業オーナーを対象とした資産運用の提案に従事。その後コンサルティング会社に転職し、未上場企業から東証プライム上場企業にいたるまで、幅広い企業に対する株価算定やМ&Aに係るコンサルティングを実施、年間100件以上の案件に携わる。その後、理念に共感し、М&A worksに参画。

M&Aを行う際のストックオプションはどうなる?取り扱いなどを分かりやすく解説

M&Aを成功させるために、従業員のモチベーションにも影響するストックオプションの取り扱いについて把握しておくことは大切です。この記事ではM&Aにおけるストックオプションの取り扱いや基礎知識を分かりやすくご紹介していきます。

M&Aを進める際に、ストックオプションの取り扱いがどうなるのか分からずに不安な企業経営者や担当者は少なくないでしょう。組織統合のプロセスでは、従業員のモチベーション維持が重要であり、ストックオプションはその鍵を握る要素の一つです。しかし、M&Aに伴うストックオプションの取り扱いは複雑なため、正しい知識がなければ適切な対応は難しいでしょう。

この記事では、M&Aを行う際のストックオプションの基礎知識、取り扱い方、そして注意点について分かりやすく解説します。M&Aを検討している企業の経営者や担当者に限らず、ストックオプションを持つ従業員にとっても役に立つ内容ですので、ぜひ参考にしてください。

1. M&Aを行う際のストックオプションとは

M&Aを行う際のストックオプションとは

ストックオプション(SO)とは、あらかじめ決められた価格(行使価額)で株式を取得できる権利(新株予約権)を報酬として役員や従業員に付与するもののことです。

業績の向上により株価が上昇すると、株価と行使価額との差額がSOを付与された役員や従業員にとっての利益となります。株価が高くなればなるほどその利益は大きくなるため、業績を伸ばし、より株価を高めていこうというインセンティブにつながります。これは、M&A後の役員及び従業員の士気を維持し、一丸となって企業価値の向上のために働いていこうという気持ちを醸成することにつながります。

また、SOの付与以降、実際に株式を取得するまでには、一定期間の継続勤務を条件とすることが一般的です。向こう数年間にわたって株価が上がっていくことを意識してもらうことができれば、優秀な人材の流出を防ぐことにもつながります。

このように、会社の業績や株価に対しての意識付け、人材の確保という点で、SOは、非常に効果的なインセンティブ制度といえるのです。

2. 【ケース別】譲渡企業のM&Aにおけるストックオプションの取り扱い

M&Aにおけるストックオプションの取り扱いについて、大きく分けて以下の4つのケースがあります。

1. 権利行使(取得)した株式を譲受企業に売却する
2. SOごと譲受企業に売却する
3. 譲受企業のSOを付与する
4. 発行会社(ここでは譲渡企業)が買い取る

通常、譲渡企業が譲受企業の完全子会社になる場合や、合併によって譲渡企業が消滅する場合には、元々譲渡企業で発行していたSOは使えなくなります。しかし、単に使えなくなったということでは、インセンティブとして付与されていた譲渡企業側の役員及び従業員にとって、期待外れで不満を感じることになりかねません。そうならないために、事前にどのように取り扱うのか、譲受企業との交渉を含めて、あらかじめ検討しておくことが大切です。

2-1. 権利行使(取得)した株式を譲受企業に売却する

付与済みのSOについて、役員及び従業員に権利行使(当初決めていた価格で株式を取得)をしてもらい、当該株式ごと譲受企業に売却する方法です。権利行使の際に、株式取得のための資金が必要になるほか、後述する税制適格要件と照らして、個人の税務がどうなるのか、事前に税理士の見解も含めて確認が必要となります。また、あらかじめ譲受企業との認識のすり合わせが必要になる点にも留意してください。

2-2. SOごと譲受企業に譲渡する

役員及び従業員に権利行使をしてもらうのではなく、SOごと譲受企業に譲渡する方法です。権利行使に際して資金は必要ありませんが、当該SOをいくらで譲渡するのかなど、譲受企業と事前に確認が必要な点に留意してください。また、こちらも個人の税務がどのようになるのか、税理士の見解を参考にしながら検討する必要があります。

2-3. 譲受企業のSOを付与する

M&Aに伴い、譲渡企業のSOは、多くの場合、当初期待していた効果が得られなくなります。その代わりに、譲受企業を発行会社とするSOを新たに付与する方法が考えられます。譲渡企業のSO1個に対して譲受企業のSOを何個付与するのか、事前に検討が必要となります。

2-4. 発行会社(ここでは譲渡企業)が買い取る

譲渡企業が発行しているSOを、譲渡企業が、役員及び従業員から直接買い取るという方法があります。いくらで買い取るのかの確認、また、個人の税務についての確認が必要です。譲渡企業のキャッシュが役員及び従業員に対してキャッシュアウトすることにもなるので、譲受企業とも事前にコンセンサスをとっておく必要があるでしょう。

上記の通り、M&AにおけるSOの取り扱いについて簡単に説明しましたが、総じて肝心なのは、専門家の意見を聞きながら検討を進めることです。

M&Aworksは、M&Aに関して豊富な実績があり、SOの取り扱いについても多くのアドバイスをした経験があります。何かご不明な点がございましたら、お気兼ねなくお問い合わせください。

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3. M&Aにおけるストックオプションを活用する2つのメリット

M&Aにおけるストックオプションを活用する2つのメリット

M&AにおけるSOの活用は、譲渡企業及び譲受企業にとっても重要な戦略の一つです。うまく活用することで、「役員及び従業員に対するモチベーションの向上」と「人材の確保・定着」という2つの大きなメリットをもたらします。

3-1. 役員及び従業員のモチベーション向上につながる

M&Aに伴う業務変化や体制移行が原因で、譲渡企業の従業員は、不安を抱えてしまうことが少なくありません。そのため、意欲的に業務に取り組む姿勢を引き出せず、M&A後の業績悪化を招いてしまう可能性があります。

こうした状況でストックオプションを付与することは、効果的な施策といえます。SOを付与することで、その後の業績向上に伴い株価が上昇することが想像できれば、従業員には「業績向上に貢献して株価を上げていこう」というインセンティブが働きやすくなります。

M&A後の新体制において、全社一丸となって同じ方向を向いていこうというモチベーションや雰囲気をつくりあげることができれば、企業にとっても大きなメリットがあるのは間違いありません。

3-2.人材の確保・定着につながる

M&A後の事業拡大や新規事業の立ち上げにおいて、人材の定着は重要です。しかし、M&Aに伴う環境変化によって、有能な人材が転職してしまうケースが少なくありません。

そうした状況の下でSOを活用するのは、有効な手段です。SOの権利行使(株式の取得)に際し、一定期間の継続勤務を求めることで、人材の離職リスクを抑えることができます。将来的に株価が上昇し、メリットが享受できることをしっかり示すことで、優秀な人材の中・長期的な確保と定着を実現できる可能性が高まるでしょう。

このように、M&A後の不安定な状況においても、中長期的な目線で企業価値が向上していくことを役員及び従業員向けに説明しながらSOを活用することで、モチベーションの向上や人材の確保を実現できる可能性が高まると考えられます。

一方、誰にどのようなSOをどれだけ付与するのかしっかりと検討しなければ、従業員の間で不公平感が生じてしまい、期待とは逆の効果が生まれてしまう可能性もあります。そのため、会社の事業計画や資本政策、人材戦略と照らし合わせながら、検討を進めていく必要があるでしょう。

【コラム】SOの種類と税制適格要件について

これまでSOの取り扱いの概要について説明してきましたが、ここではSOの種類と税制適格要件について説明します。
SOには、広く一般的に使われている制度として、以下の2種類に大別されます。
※少し複雑な制度を含めると2種類以上ありますが、ここでは割愛させていただきます。

【①無償型】
会社から役員及び従業員向けに無償で付与されるものです。大原則として報酬見合いで会社から付与されるものなので、対象者の課税関係は権利行使時(株式を取得した時)の株価と行使価額(当初決められた価格)との差額が給与所得(総合課税)としてみなされます。ある要件を満たせば税制上の優遇を受けられる税制適格要件というものが認められており、多くの未上場会社では、この税制適格要件を満たすようにSOを発行するのが一般的です。
主な税制適格要件は以下の通りです。

対象者の条件SOを発行する会社の取締役及び従業員であること。監査役や顧問、発行済株式数の1/3を超える株式を保有する大株主(非上場会社の場合)は対象外。社外協力者は一定の要件(社外高度人材としての要件)を満たせば可。
権利行使の条件1. 設立5年未満の場合
上場・非上場問わず、権利行使の限度額が年間2,400万円
2. 設立5年以上、20年未満の場合
非上場または上場5年未満の企業:年間3,600万円
上場から5年以上の企業:年間1,200万円
3. 設立20年以上の場合
上場・非上場問わず、年間1,200万円
権利行使価額の条件付与時点の時価以上であること
その他の条件SOの譲渡が禁止されていること等

これら全てを同時に満たすことで、税制上の優遇措置を受けることが可能です。

具体的には、権利行使時に課税所得はみなされず、株式を売却した際の(売却価格―行使価額)に対してのみ譲渡所得課税が発生します。譲渡所得課税は、給与所得課税とは異なり、分離課税で、どれだけ利益が出ても一律20.315%だけしか課税されないため、税務面でのメリットが享受できるというわけです。しかし、その分、細かい要件が求められるため、専門家と相談しながら設計をしていく必要があります。

【②有償型】
会社からSOを発行する対価として役員及び従業員が金銭を支払う制度です。つまり、役員及び従業員が会社の発行するSOに投資をするという制度です。発行時に無償ではなく有償でSOを購入しなければならないというデメリットがある一方で、あくまで投資制度であり報酬とはみなされないため、個人の課税関係は、仮に税制適格要件を満たしていない場合でも、取得した株式を売却した時の譲渡所得課税のみとなります。

また、最初に役員及び従業員が身銭を切ってSOを購入するため、SOに対する意識は無償型に比べて強く、よりインセンティブとしての効果は高いというメリットがあります。

しかし、SO発行時の払込金額を専門家に算定してもらう必要があるなど、無償型に比較し、設計に係るコストが高いというデメリットもあります。
会社の状況やSOを付与する対象者によって、どのような制度を選択するかも重要なポイントとなります。

4. まとめ

まとめ

ストックオプションを活用することで、役員及び従業員のモチベーションを高めるほか、人材を確保するうえで大きな効果が期待できます。しかし、制度設計が複雑であったり、譲渡企業及び譲受企業間でのすり合わせが大変だったりするなど、検討すべきポイントが多くあります。

M&Aworksでは、ストックオプションに関する知見も深く、M&Aに関連して多くのアドバイスを実施してきた事例があります。皆様のご相談ごとに適切な提案をさせていただきますので、ぜひお気兼ねなくご連絡ください。

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