中小企業のオーナーが知っておきたい M&Aが失敗する要因26選

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執筆者 渡辺侑介

大学卒業後、野村證券株式会社に入社。中小企業の経営者や法人の資産運用・コンサルティングに従事。事業承継に悩む経営者の方々と接するにつれ、本質的な経営課題の解決に携わりたいという強い思いから M&A works に参画。

中小企業のオーナーが知っておきたい M&Aが失敗する要因26選

M&Aでは長年を共にしてきた会社や従業員を第三者に手渡すことになります。そのため、譲渡を検討するオーナーの中には『M&Aは気になるけど、失敗したらどうしよう…』という気持ちを抱えている方もいるのではないでしょうか。

M&Aは、『結婚』に例えられることが多くあります。実際にご売却をされたオーナーのお話を伺うと、自社を売却するときの想いは、『大事に育てた娘が嫁ぐときの父親の想い』に似ているという方も少なくありません。嫁いだ先での娘の幸せを願うことと同じように、M&A後の自社の幸せを願うのは当然のことだと思います。

そのため、M&Aを成功させるポイントをしっかりと熟知することだけでなく、失敗しないポイントも理解することはとても大切になります。しかし、M&Aの失敗事例をネットで探しても、具体的なものはなかなか出てこないのではないでしょうか。

なぜならば、譲渡企業のオーナーは仮にM&Aによる譲渡が失敗してしまったとしても、そのことは口外したくないはずだからです。それは譲受企業も同じと言え、そのM&Aを取り持ったM&A仲介会社ならばなおの事です。自らの失敗を大々的に発信することはしたくないという考えから、具体的な失敗事例を探しづらい状況を生んでいると思います。

この記事では、M&A仲介業界で長年働いている方々へのインタビューを重ね、少々生々しい失敗例も集めました。具体的な対応策も含めて解説していきたいと思いますので、最後まで読み進めていただければ、実際にM&Aを進めるときにどこに気を付けたらいいかが分かると思います。

なお、特定を避けるため、事例の個人情報等にかかる部分は加筆・修正をして掲載しています。

1. M&Aにおける失敗とは? 大きく3つに分類

M&Aで失敗したと認めていただける当事者の皆さんが口をそろえることは、『話が違った』ということです。ただ、それぞれの失敗を掘り下げると、大きく3点に分類することができると思います。

(1)M&Aが成立しない状況になってしまった失敗
(2)M&Aが成約したものの評価や条件が不利になってしまった失敗
(3)M&A後に起きた失敗

この3点を分けて考えることで今後取り組まれるM&Aにおいて対策がしやすくなると思います。

結婚には3つの坂(上り坂、下り坂、まさか)があると言われますが、M&Aにこそ、その『まさか』がたくさん転がっていますので、皆さんには自分事として捉えて読んでいただければ幸いです。

2.こんなにある! 譲渡企業側の失敗要因12選

さっそく、M&Aの失敗要因を見ていきましょう。前述の3つの分類に合わせて、譲渡側、譲受側のそれぞれで失敗要因を挙げ、解説していきます。

2-1 M&Aが成立しない状況になってしまった失敗

(1)情報漏洩が起きてしまった
(2)(従業員の)キーマンへの開示失敗で社内が分裂する
(3)株券・株主名簿の未整理でそもそもM&Aが出来ない
(4)規定の整備不足(特に労務面)で悪印象

(1)情報漏洩が起きてしまった
(2)(従業員の)キーマンへの開示失敗で社内が分裂する

は、交渉による失敗です。

これは社内が混乱してしまったためにM&Aが成立しなかったものです。

M&Aの交渉は『秘密保持に始まり秘密保持に終わる』と言われています。M&A前に自社の譲渡を第三者に知られてしまうことは大きなデメリットになりかねません。また、M&Aが成立しない中での情報開示は、時として情報開示を受けた側の不安を増幅させたり、開示後に大きな反発を招いたりすることにつながってしまいます。

情報漏洩は様々な漏洩ルートが想定されますが、情報漏洩により社内が混乱してしまい、M&Aどころではないという状況に陥ってしまうことはしばしばみられます。重要な取引先や従業員が『会社の業績が悪いから売るんだ』という間違った認識のもと、取引の見直しや転職などを引き起こす原因にもなってしまいます。

キーマンにM&Aの情報を開示するのは、譲渡企業側としても譲受企業側としても重要視される要素になる中、この手順を間違うと社内に大きな波紋を呼ぶことになります。

譲渡企業側としてM&A前にキーマンに開示をしたいと思うのは、重要なキーマンに内緒でM&Aを進めることが良くないこと、開示しないことが心情的に耐えられないという理由が多いです。譲受企業側としてM&A前にキーマンに開示したいと思うのは、買収後にキーマンが退職してしまうなどで経営にマイナスの影響があることをヘッジしたい(回避したい)という考えからです。

キーマンが猛反対…退職してしまった
M&A前にキーマンに対し『M&Aをしたいので協力をしてほしい』と譲渡オーナーが開示をしたところ、キーマンは猛烈に反対をしました。キーマンは自分がこの会社の背骨であるという強い自負を持っていたのですが、M&Aによって自分の積み上げてきた立場が危ぶまれると想定し、反対をした状況です。

M&Aの交渉条件にキーマンの昇格(従業員から取締役への抜擢)や昇給も入れ、譲渡オーナーとしては最大限の配慮をしたつもりでした。ですが、そのキーマンが聞く耳を持たなかった上、もともと考えていた条件も『私の機嫌をとるために後から取ってつけた条件だろう』と説明も受け付けない形になってしまいました。最終的にはキーマンが社員を連れて退職するという事態にまで発展しました。こうなってしまっては、もうM&Aどころではないと言えます。

譲渡側のキーマンの印象が譲受側の判断に影響
別のケースでは、経営の根幹を担っていた営業部長(キーマン)にM&Aに関する事前開示をしたところ、その営業部長は自分が辞めてしまえばこの会社は立ち行かなくなるという状況を逆手に取り、自身の待遇改善を要求してきました。譲受企業としては“横暴なキーマン”であるという印象を持ってしまい、買収後の運営が困難であると理由付けました。結局、このM&Aは破談になってしまいました。

これらのケースは、M&Aの進め方を熟知していないM&Aアドバイザーによって引き起こされたものではありますが、交渉の順番が違うだけでより良い形で進められることができたのではないかと思います。どのタイミングで伝えるかはお互いの関係性や状況によって変化しますので、M&Aアドバイザーと連携して進めることが良いです。


(3)株券・株主名簿の未整理でそもそもM&Aが出来ない
(4)規定の整備不足(特に労務面)で悪印象

は、準備不足による失敗です。これは未然に防ぐことができますので事前の準備をしておきましょう。

M&Aとは株式等の売買を成立させることです。つまり、「株主が誰であるのか」は根本的に重要な要素になります。

少数株主と連絡が取れない
ある譲渡企業は設立が100年近く前であり、その歴史において株主の変更が何度もありました。その中には名義株と言われる表面上の株主も含まれていました。さらに、少数株主との連絡が取れない状況も発生していました。こうしたことをきちんと確認せずにM&Aを進めてしまい、買収監査のタイミングでその事実が発覚。譲渡側も譲受側の企業も良縁と考えていたにも関わらず、誰が株主かが分からないという根本的な問題に直面し、M&Aが成立しないという失敗を招いてしまいました。

簿外負債がリスクに
次に規定類の未整備によりM&Aが成立しなかった例を説明します。このケースでも先ほどの株式の問題と同様、譲渡側も譲受側も良縁と考えていたにも関わらず、M&Aが成立しませんでした。

譲渡企業は30年以上経営している優良企業でしたが、創業者であるオーナー兼社長が社内の規定を定めず、退職金や残業代について個人の感覚で判断をしていた実績がありました。良かれと思って退職者に多めの退職金を支給したり、残業代について決められたルールもなく支払い金額を決めたりしました。譲受企業側が行った買収監査により想定される最大限の簿外負債を計算したところ、(買収は)リスクが大きすぎると判断され、M&Aが成立しませんでした。
いずれの例も破談になってしまいましたが、事前の準備を徹底していくことで防げた可能性が高い失敗と言えるでしょう。

2-2 評価や条件が不利になってしまう失敗

(5)一貫性のない条件交渉
(6)譲受側や仲介会社、FA(ファイナンシャル・アドバイザー)の言いなりになってしまう
(7)M&Aの条件交渉中に業績が悪化

(5)一貫性のない条件交渉
(6)譲受側や仲介会社、FA(ファイナンシャル・アドバイザー)の言いなりになってしまう
(7)M&Aの条件交渉中に業績が悪化

は、M&Aに対する知識が不足していたことがすべてです。

M&Aが初めての方はどのように進めていくべきかをM&Aアドバイザーに力添えいただく形になりますが、M&Aアドバイザーの知識不足も相まって、M&Aが成約したものの条件が思い通りにならなかったというものです。

どんな条件も後付けで伝えると…
M&Aの交渉は『後出しじゃんけんは不利』と言われています。これは、どんな条件も後付けで伝えるとどうにも卑しく聞こえてしまうので、交渉上不利になってしまうというものです。

具体的にいえば、最後の条件交渉を行っているタイミングで『交渉するのを忘れていたが、会社が所有している高級車を今後も自分で乗るために自身で買い取りたい』と伝えた場合、譲受企業側は『今さらそんなことを言ってくるなんて』と思いかねないのです。仮に初期の段階からこの条件を入れていたとしたら、譲受企業側はなんらストレスなく受け入れてくれたでしょう。ですが、このように後になって交渉する(=“後出しじゃんけん”をする)ことで不利になってしまいます。

また、譲受企業や仲介会社、FAの言いなりになってしまうことで、気づかぬうちに価値を下げていることもあります。初めてのM&Aにおいて何が正しいかを判断することは非常に難しいことだとは思います。ですが、相手方から言われた条件が本当に正しいかを知るため、事前にM&Aの目的や条件をきっちり定めておくことが自分自身を守ることにつながるでしょう。

2-3 M&A後に起きた失敗(『売却するのではなかった…』という失敗)

(8)キーマンへの開示失敗で辞めてしまった
(9)譲受企業の財務内容が悪かった
(10)COC(チェンジ・オブ・コントロール)条項の確認不足で取引先剥落
(11)M&A完了後の条件について詰めが甘く話が違っていた
(12)契約書の完成度が低い

(8)キーマンへの開示失敗で辞めてしまった

は、前述の失敗と同じため(2)をご参照ください。

(9)譲受企業の財務内容が悪かった
(10)COC(チェンジ・オブ・コントロール)条項の確認不足で取引先剥落

は、M&A前にすべき確認を怠ったことによる失敗です。

M&Aでは譲渡企業の分析や評価が交渉の中心になりますが、忘れがちなのが譲受企業の情報収集や分析です。

譲渡後にオーナーの連帯保証が外れなかった
これを怠った例として最悪のケースは、譲渡後にオーナーの連帯保証が外れなかったというものです。譲渡企業は業績悪化に伴い救済型のM&Aを選択。相手候補として挙がった譲受企業はトップ面談では非常に好意的だったといい、譲渡オーナーはこの相手なら自社を託してもいいと考えられたそうです。話はとんとん拍子に進み、あっという間にM&Aが成立しました。救済型のM&Aであるため、条件には譲受企業側が連帯保証を解除してくれる、資金援助をしてくれるという内容が盛り込まれました。

しかし、M&A後の譲受企業は一向に約束した条件を果たそうとしませんでした。譲渡企業は何の支援も受けることができませんでした。冒頭で紹介した通り、M&Aは結婚であると例えられるため、お互いの情報を開示し、相手を選ぶべきであったと思われます。

COC(チェンジ・オブ・コントロール)条項の確認不足については下記のリンクを参考にしてください。弊社代表の安藤がForbes JAPANのコラムに寄稿したように、譲渡企業の業績が大幅に悪化してしまう結果を招いてしまいました。

関連URL:https://forbesjapan.com/articles/detail/67471


(11)M&A完了後の条件について詰めが甘く話が違っていた
(12)契約書の完成度が低い

は、M&A前に誰の責任で約束を果たしていくのかという調整が不足していたことによる失敗です。

譲渡企業オーナーがM&Aを後悔する理由でもっとも多いとされるのが、この失敗です。いわゆる『話が違うじゃないか』というものです。

譲渡後も会社が存続し続けるはずが…
具体的に言えば、M&A前の口約束では譲渡後も会社が存続し続けるはずでしたが、M&A後、2年弱で親会社に吸収合併されてしまい、会社がなくなってしまったというケースです。譲受企業としては会社の組織再編に伴い、グループを管理しやすくするために統合していく目論見である一方、譲渡企業の元オーナーは3代続く企業の社長だったことから会社が大手と提携することで末永く存続することを希望していました。実際の契約書を確認すると、吸収合併を制限する条項が入っていないどころか、そもそも譲渡企業の存続に対する記載が何も入っていませんでした。

継続勤務の条件が途中で反故にされた
別の具体例としては、60歳の譲渡オーナーが自身の将来設計を考えてM&Aを選択したのですが、条件に入っていた5年間の継続勤務が途中で反故にされてしまったケースがあります。これも契約書に明記していなかったために起こった出来事であり、契約書にない以上、その譲渡オーナーとしては戦うことができず泣き寝入りをする結果になってしまいました。

どちらのケースにも言えることですが、M&Aは契約書がもっとも大事であるため、契約書にしっかりと条件を記載するよう注意してください。前述した『話が違う』という状況を少しでも避けるため、M&A後の働き方や会社の在り方(PMI)についてM&A前にしっかりと議論を重ねるようにしましょう。ときには譲受企業側として悪意がない行為も、元譲渡オーナーの考えにそぐわないことから“喧嘩状態”に発展しまうこともあります。まさしくM&A前の話し合いが不足していると言えるでしょう。

3.譲受企業側の失敗要因14選

この章では譲受側の失敗要因を挙げ、解説していきます。

3-1 M&Aが成立しない状況になってしまった失敗

(1)情報漏洩を起こしてしまった
(2)キーマンへの開示を急いでしまいトラブル発生
(3)説明不足により魅力が譲渡オーナーに伝わらない
(4)M&Aをなぜするのか、ゴールが不明確

(1)情報漏洩を起こしてしまった
(2)キーマンへの開示を急いでしまいトラブル発生

は、M&Aの進め方が不適切であったことによる失敗です。

譲受企業としての失敗ですが、譲渡企業の失敗と重複することも多くあります。結局は慎重に準備を重ねてM&Aを進めていくしかないということですが、譲受企業においては油断が失敗の要因になっていることも見受けられます。

断りを入れず外部調査をしてしまった
具体例としては、譲受側としての一方的な要望を満たすために秘密保持を軽率に考えてしまい、トラブルになってしまったケースがあります。ある小売大手の譲受企業は同業の買収を行う際、譲渡企業側やM&A仲介会社に断りを入れず外部調査を事前にしてしまったことで情報が拡散してしまいました。

詳細に触れると、譲受企業のM&A担当部署の部長は上席に報告するための詳細な情報を得ようと、譲渡企業と共通の仕入先に対して譲渡企業の取引状況や実態を調査してしまったものでした。仕入先は業界大手である譲受企業に恩を売るために様々な調査をしたのですが、それが仇となり、譲渡企業にその情報が逆流してしまいました。結論として、M&Aの話がなくなり、当該の部長は他の部署に異動となってしまいました。

情報開示を急ぎすぎた
(2)のようにキーマンへの開示を急ぎすぎてしまったがためにトラブルになったケースがあります。どのような状況においても、譲渡企業の都合を最大限に配慮する必要があり、『これくらいは大丈夫だろう』という油断により、譲渡企業の方々の人生を狂わせてしまうことがあることを理解していただきたいと思います。


(3)説明不足により魅力が譲渡オーナーに伝わらない
(4)M&Aをなぜするのか、ゴールが不明確

は、根本的なM&A戦略が描けていないためにM&Aが成立しない失敗です。

どのような相手と一緒になれば社員を含めた関係者のメリットにつながるか-。こうしたことを譲渡企業は真剣に考えています。この状況で数多ある譲受企業の中から選ばれるためには、譲受企業がM&Aに対して洗練された戦略や事業への想いなど、金額以外の提案も重視しなくてはいけません。

なぜM&Aをするのか、その結果、どのような目標を達成するのかというゴールをあらためて明確にすることで、譲渡企業側が感じる譲受企業への魅力が大きく変わってくると思います。

3-2 評価や条件が不利になってしまう失敗

(5)仲介会社、FAの言いなりになってしまう
(6)一貫性のない条件交渉
(7)社内専門家の言いなりになってしまう

(5)~(7)は、譲渡企業側の『評価や条件が不利になってしまう失敗』の解説内容とほぼ同じになりますので、上述の箇所を参照してください。

3-3 M&A後に起きた失敗(『買収するのではなかった…』という失敗)

(8)不十分な買収監査で簿外負債が後から発覚
(9)COC条項の確認不足で取引先剥落
(10)M&A完了後の条件について詰めが甘い
(11)従業員の離反
(12)買収価格が不適正
(13)譲受企業の選択ミス
(14)PMIの失敗(買収後の放置、業績悪化)

(8)不十分な買収監査で簿外負債が後から発覚
(9)COC条項の確認不足で取引先剥落
(10)M&A完了後の条件について詰めが甘い
(11)従業員の離反

は、M&A前の調査や確認が不足していたため、M&A後にトラブルに発展してしまったものです。

M&Aは想像もしていなかったトラブルにより『買収するのではなかった』という結論を招くことがあります。その事態を防ぐために買収監査を行うのですが、買収監査で100%リスクを回避できるわけではありません。

まず理解していただきたいのが、買収金額が安価だからといって買収監査をおろそかにしていいわけではないということです。買収する対象企業が大きくなれば、その分だけ監査の内容は膨れ上がります。一方、対象企業が小規模であったとしても、リスクは内在しているケースがあるため、慎重に買収を検討しなくてはいけません。

小規模だからと買収監査を行わなかった
具体例を言えば、小規模であるがゆえに買収監査を行わず、後から大きな簿外負債が発覚したケースです。M&A後の譲渡企業は郊外で工場を構える製造業でした。自社で土地と建物を所有していたのですが、業績拡大に成功したことから移転を計画することにしました。譲受企業としては買収金額も想定より安価で済ますことができており、非常に良いM&Aだと理解していました。
しかし、移転計画に伴う土地の売却を図ったところ、実はその土地に土壌汚染がある(前所有者による)ことが発覚し、売却が困難であるという事態になってしまいました。この土壌汚染を地質改善し、売却できるようにするためには当初の買収金額を上回るほどの費用が必要になってしまい、移転計画が頓挫する状態に陥りました。これは、隠れた負債を見つけることができなかったがゆえに起きた失敗です。移転計画が進まず規模の拡大も遅れてしまう結果になりました。

(9)のCOC条項は譲渡企業側で記述した通りです。譲受企業側でも同じようなことが起こりうるので十分気を付けてください。

(12)買収価格が不適正
(13)譲受企業の選択ミス
(14)PMIの失敗(買収後の放置、業績悪化)

は、そもそものM&A戦略の構築が不十分であったがゆえに起きた失敗です。

M&A戦略を構築するためには、膨大な情報を集め、あらゆる角度から情報を分析して組み立てる必要があります。単純に譲渡企業の財務状況等だけで判断することは大きな失敗を呼ぶことになります。

異業種を買収し、運営に支障が出てしまった
具体例としては、多角化を目指していた譲受企業が十分な検討を経ず、買収に至ってしまったことで譲渡企業の運営に支障をきたしてしまったケースです。

譲受企業は業歴が70年以上あり、地場で有名な企業でした。創業当時は競合も少なく高収益体質の経営ができていましたが、近年では同エリアにおける同業大手の進出や材料費の高騰等を理由に利益がほとんど出ない状態が続いていました。過去の内部留保を生かし、M&Aを長年検討していましたが、なかなか成約をすることができなかったため、まったくの異業種を買収する選択をしました。

M&Aを実行した当初はうまくいっていたものの、後継者問題を背景に売却された譲渡オーナーは半年で引退。その後は自社で運営することになっていましたが、まったくの異業種であったがゆえに譲渡企業のキーマンに経営を依存する形になってしまい、その影響力が日に日に大きくなっていきました。最終的に複数の社員がキーマンを中心に結託し、給料の増額や待遇改善を求めてくるなど制御不能な経営状態に陥ってしまい、『買収するんじゃなかった』と感じるまでになりました。

本来必要な投資が後回しになってしまった
同じようにM&A戦略の不十分さが原因で買収価格が高すぎたために、譲受企業本体で必須だった投資が後回しになってしまったというケースもあります。

製造業を営んでいた譲受企業は業界の先行きを見据えて多角化をすべきとM&Aに取り組みました。異業種の企業でありながら直近3年分の業績が良いことから、相当程度に高い買収価格でM&Aを実行しました。その後に発覚したことですが、譲渡企業の業界は数年に一度のサイクルで業績に波があることが一般的で、買収金額の回収に大幅な遅れを来してしまいました。

これだけであれば回収に年月をかければいいのですが、本当の戦略不足による失敗はここからでした。譲受企業は製造業であるため定期的に設備を入れ替えなくてはいけません。買収から数年経ったとき、大型設備の入れ替えが必要になりました。時期を同じくして、譲渡企業の業界の谷が訪れ、業績が悪化してしまったのです。

すると、大型の設備を導入するために長年付き合っていた金融機関の対応が大きく変わってしまいました。金融機関の借入に対する考え方はグループ一体で与信判断することが一般的とされていますが、譲受企業はそうした長期的な投資のバランスや金融機関の考え方を熟知していませんでした。したがって、本業の設備投資にマイナスな影響をもたらしたM&Aを後悔しました。

なぜM&Aをするのか、それによってどんなリスクがありどこまで許容できるのか。そして、最悪のケースを想定してそれを避ける手段をしっかり用意できるのか。今般、一種の流行のように『M&Aが良い』と言われていますが、リスクのある商取引であることをしっかりとご理解いただき、戦略を構築していただきたいと思います。

コラム① 『まさか、こんなことが』…

ここまで長文をお読みいただきありがとうございます。

最後に少々生々しい話になりますが、本当にあった、小説のような失敗事例を紹介したいと思います(なお、冒頭にも記載の通り、事例は特定を避けるため、個人情報等にかかる部分を加筆・修正をして掲載しています)。

企業経営には上り坂、下り坂、まさか、があると言われていますが、インタビューをした私もこの話は『まさか、こんなことが』という言葉が出てしまうほどでした。

譲渡企業は相当の業歴を有する、財務も安定した優良企業でした。創業者である社長の個人経費が多少かさんでいたものの、法・個人一体とされる中堅中小企業においては珍しくないもので、特に大きな懸念もなくM&Aが実行されました。この企業の譲渡理由は創業者である社長が大病を患っていたことでした。

事の顛末は記載を避けますが、その後の展開は次の通りでした。

・譲渡後、創業者である社長はお亡くなりになりました。
・社長の逝去に伴い、遺産相続手続きをしていたら愛人とその子ども(認知済み)が急きょ現れました。
・こともあろうか、愛人らは譲渡企業の株券を持っており、自分たちが株主であると主張してきました。
・最終的には株式譲渡契約自体が無効であるとも主張してきました。

譲受企業としては心の底から「まさか」と思ったでしょう。反省すべき点として、創業社長の個人経費について使途不明金が多く、その資金の一部が愛人に流れていたという実態があったのでした。これを丁寧に確認していけば、このような失敗に至らなかったのではないかと思います。

4.まとめ

今回の記事ではM&Aの失敗とその要因についてまとめました。M&Aの失敗に共通することは、経験不足や情報不足、そして、油断や思い込みなど、複雑な要素が絡み合って起きているということです。

M&Aの関係者すべてが納得いく結果を生むには、正しい情報を手に入れることが欠かせません。そのため、信頼できるM&Aアドバイザーとともに慎重に進めていくことをお勧めします。

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