M&Aにおける資金調達方法について、「どのような方法があるのかわからない」「どの方法が最適か判断できない」と悩む人も多いのではないでしょうか。資金調達方法の選択は、ご買収・ご売却の成否だけでなく、その後の経営状況に影響が出る可能性があります。そのため、企業規模や財務状況などを総合的に考え、慎重に検討することが必要になります。
この記事では、M&Aで資金調達が必要な理由や資金調達の方法を紹介していきます。ぜひ最後まで読み進めてください。
目次
1. M&Aにおいて資金調達を行う4つの理由
M&Aを実施する際には多額の資金が必要となるため、資金調達がよく行われます。主に以下の費用を賄うことを理由に資金調達を行う場合が多いです。
・納税費用を調達するため
・M&Aの専門家への依頼費用を調達するため
・その他の諸費用を調達するため
それぞれの理由についてこれから説明します。
1-1. 買収費用を調達するため
買収費用の調達を理由とする場面は、小規模事業におけるM&Aに多いです。小規模事業におけるM&Aでは、M&Aのスキーム(事業の売買や合併で用いられる手法)として株式譲渡や事業譲渡が採用されるため、対価に現金を用いることが一般的と言えます。
これに対して、規模の大きい取引では、M&Aのスキームとして会社分割や合併などが採用されるため、現金、自社株式、社債、新株予約権、新株予約権付き社債など幅広い選択肢から検討可能です。
仮に、会社分割や合併の対価として、自社株式を選択すると資金調達は不要ですが、株主構成が変わってしまったり、株式の1株あたりの価値が下落してしまったりする点に注意が必要です。
そのため、会社分割や合併であっても対価として現金が用いられることが一般的です。M&Aの対価は相応の金額になるため、自己資金で賄えなければ、買収側は資金調達するしかありません。
1-2. 納税費用を調達するため
譲渡・譲受企業の規模が大きいほど、納税費用の調達も必要になる可能性があります。譲受企業は、買収した企業規模に比例して売上高や経常利益も膨らむため、納税額も高くなります。もし納税額の支払いを手持ち資金で賄えなければ、資金を調達する必要が出てきます。
譲渡企業は、売却益から納税額を支払うことが一般的なので、納税費用のために資金調達を行うことは少ないと言えます。
1-3. M&Aの専門家への依頼費用を調達するため
M&Aでは、仲介業務を依頼したM&Aの専門家への手数料を支払うために資金調達することもあります。 M&Aの実施には専門知識や交渉力が必要になるため、M&Aの専門家に仲介業務を依頼するのが一般的です。
M&Aの仲介業務を行う専門家には、M&A仲介会社、金融機関、士業事務所、経営コンサルタントなどがあります。それぞれの専門家によって手数料計算が異なりますが、大まかな手数料相場は「M&Aの対価の5〜10%程度」です。
売却した企業の規模が大きければM&Aの対価も上がり、その対価に比例してM&Aの専門家への手数料が高くなります。M&Aの専門家への手数料を自己資金で賄えない場合は、資金調達が必要になりえます。なお、M&Aの専門家への手数料は、譲渡・譲受企業どちらも発生します。ただし、譲渡企業は売却益から仲介手数料を支払うことが一般的なので、手数料のための資金調達を行うことは少ないと言えます。
1-4. その他の諸費用を調達するため
M&Aの必要資金には、その他の諸費用も考慮しておく必要があります。まず考えられるのが、M&Aを実施する承認手続きとして、株主総会の承認決議の開催にかかる費用です。株主の人数が多い場合は広い会場で実施する必要があり、ホールやホテルを借りて株主総会を開催するのであれば費用が発生します。
そのほかにもM&Aを実行する従業員の人件費やそれにかかる交通費・宿泊費などの費用も含めて出費が高額となれば、資金調達が必要となりえます。また、M&Aの実施後に、事業を運営していくための運転資金が必要になるケースもあります。
2. M&Aにおける資金調達の種類は大きく2つ
M&Aにおける資金調達の種類には「直接金融」と「間接金融」があります。企業の状況などによって最適な方法は異なるので、これから紹介するメリット・デメリットを検討に役立ててみてください。
2-1. 投資家から直接資金を調達する「直接金融」
直接金融とは、投資家や株主から出資を受けて資金を調達する方法のことです。出資金は、資本金または資本準備金として計上されるものであり、返済の必要がありません。借入金と違い、利息も発生しない点がメリットといえます。
企業が発行する社債は、直接金融に分類されます。これは企業が社債引受者から直接お金を受け取るためです。ただし、社債の償還期限には返済しなければならず、利息も発生します。このように同じ直接融資でも、社債は出資を受ける場合に比べて性質が異なります。
2-2. 第三者からお金を借りて資金を調達する「間接金融」
間接金融とは、主に金融機関から融資を受けることを指します。間接金融で得た資金は借入金なので、定められた期間での返済義務が生じます。利息も支払わなければなりません。
金融機関から受けた融資は、もともと預金者のものです。資金を回収しなければならない立場であるからこそ、融資審査は厳しくなります。
3. 直接金融によるM&Aの資金調達方法
直接金融による資金調達の方法は「公募増資」「株主割当増資」「第三者割当増資」の3種類があります。ここでは、それぞれの意味とメリット・デメリットを紹介します。
3-1. 一般の投資家を対象に株主を募集して資金調達する「公募増資」
公募増資は、株式市場を通して投資家から出資を募り、資金を調達する方法です。株式市場の株価は株式の需要度合いによって、常時変動するため、増資で集まる出資額が変動するデメリットがあります。また、公募増資を利用できるのは基本的に上場企業のみです。
公募増資のメリット | 公募増資のデメリット |
多数の投資家から資金を調達できる可能性がある。 | 敵対的買収の意思を持つ者が株主になる可能性がある。 |
投資家からの出資が集まる(株式の購入数が増える)ほど株価は高くなり、出資額も増える。 | 新たな出資者(株主)が増えることで株主構成が変わり、議決権割合に影響を及ぼす可能性がある。 |
株価が高くなると株式市場の注目を集めるため、さらに出資者(株式購入者)が増える可能性がある。 | 増資で資本金額が増えると法人税、消費税、登録免許税が高くなることがある。 |
公募増資の手続きは複雑であるため、M&Aの専門家や弁護士などから意見を聞くことをおすすめします。
3-2. 既存株主に新株を発行することで資金調達する「株主割当増資」
株主割当増資は、既存株主に新株を発行して割り当て、それに応じた出資を株主から受けて増資を行う方法です。新株の発行数は、既存株主の現在の保有比率が変わらないように調整されます。株式の保有比率が変わってしまうと、比率が下がった株主からはクレームが寄せられ、場合によっては株式の売却につながりかねないため、こうした事態を防ぐための措置です。
株主割当増資のメリット | 株主割当増資のデメリット |
株主の持株比率は変わらない。 | 持株比率が変わらないため、既存株主が積極的に追加出資する気持ちになりづらい。 |
既存株主のみへの新株発行であるため、敵対的買収の意思があるような者の出資余地がない。 | 既存株主には株主割当増資に応じる義務はないため、応じる株主が現れない場合は資金調達ができない、または計画した金額の資金調達に足りなくなる。 |
調達した資金を返済する必要がない。 | 増資で資本金額が増えると法人税、消費税、登録免許税が高くなることがある。 |
株主割当増資のデメリットを鑑みると、増資を成功させるには株主に説明を尽くし、理解・賛同を得ることが大切です。
3-3. 特定の第三者に新株を発行して資金調達する「第三者割当増資」
第三者割当増資は、特定の第三者に新株を発行、または自己株式(企業が所有している自社株式)を交付して出資を受けて増資する方法です。増資方法としてだけではなく、M&Aのスキームとして用いられることもあります。
M&Aのスキームとして用いられる場合は、出資側が総株式の過半数を取得するように新株発行および自己株式交付を行います。また、第三者割当増資は買収ではなく、資本提携の手段としても用いられる方法です。
第三者割当増資のメリット | 第三者割当増資のデメリット |
第三者(株式割当者)を自由に決められる。 | 株主構成が変わる。 |
敵対的買収への対抗策にもなる。 | 議決権割合が低下した既存株主が反発して株式を売却する可能性がある。 |
返済の義務がない。 | 増資で資本金額が増えると法人税、消費税、登録免許税が高くなることがある。 |
第三者割当増資も、既存株主への説明による理解が求められます。
4. 間接金融によるM&Aの資金調達方法
間接金融によるM&Aの資金調達方法には、「金融機関から融資を受ける場合」と「公的金融機関から融資を受ける場合」があります。金融機関と公的金融機関どちらが適しているのか、メリットとデメリットを比較しながら検討しましょう。
4-1. 金融機関から融資を受ける
金融機関には、銀行・信用金庫・信用組合・ノンバンクなど、さまざまな組織があります。
金融機関から融資を受ける場合は、公的金融機関よりも審査が早く、自己資金不足をすぐに補える点がメリットです。しかし、金利が高い傾向にあり、長期間の借り入れでは利息の負担が大きくなるデメリットがあります。
金融機関から資金調達するメリット | 金融機関から資金調達するデメリット |
増資ではないため、株主構成に影響を及ぼさない。 | 必ず定められた期間で返済しなければならない。 |
企業の信用力次第では低金利で借りられる。 | 企業の信用力次第では追加融資を断られる。 |
自己資金不足を補える。 | 経営者保証をしている場合、企業倒産時に経営者が債務を負う。 |
金融機関から資金調達する場合は、返済計画をきちんと立て、それを実行することが大切です。
なお、金融機関から受ける融資には、大きく「信用保証協会が債務保証する融資」と「プロパー融資」の2種類があります。信用保証協会が債務保証する融資は、保証料がかかりますが、審査に通りやすいメリットがあります。一方で、プロパー融資は保証を利用しないため、審査が厳しくなりますが、保証機関を利用しない分、融資実行までの期間の短縮、調達額の最大化を目指せるというメリットがあります。
保証協会を利用する場合、調達額に上限があります。譲受を目的とした調達の場合、多額の資金が必要になる場合もあり、プロパーでの調達が必須となるケースが多いです。プロパーでの融資を受けるために、自社の財務状況の向上、金融機関との密な情報交換が重要になります。
また、間接金融には「シンジケートローン」という手法もあります。
シンジケートローンとは、複数の金融機関が協力して1つの借り手に対して資金を貸し付ける仕組みです。特に、借り入れ金額が大きく、1つの銀行だけではリスクが高い場合や資金が足りない場合に利用されます。大型のM&Aを実施する場合に検討してみてはいかがでしょうか。
4-2. 公的金融機関から融資を受ける
公的金融機関には、日本政策金融公庫・商工組合中央金庫・日本政策投資銀行・国際協力銀行の4機関があります。このうち商工組合中央金庫のみ、政府と民間の共同による出資です。政府の出資比率は、2024(令和6)年4月現在で約46.5%となっています。
公的金融機関から資金調達するメリット | 公的金融機関から資金調達するデメリット |
民間金融機関よりも金利が低い。 | 場合によっては審査が厳格。 |
小規模事業者や個人事業主向け融資も行っている。 | 借入に関連して提出する必要資料が多い。 |
無担保・個人保証無しでも融資可能。 | 融資の審査に時間がかかる傾向にある。 |
公的金融機関からの資金調達は、制度によって低金利・無担保などの好条件である分、制度の趣旨や条件に適合するかどうかを厳しく審査される場合があるという特徴があります。
5. 間接金融による資金調達の際に覚えておきたい「LBO」について
金融機関や投資家から資金調達する特殊な方法として「LBO」があります。ここではLBOの概要と、混同されやすいMBOの意味を紹介します。
5-1. 相手企業の資産・将来的な利益を担保に資金調達する「LBO」
LBO(Leveraged Buyoutの略称)とは、M&Aを実施する際の資金調達のために、譲渡企業が所有する資産や将来の収益を担保にする方法のことです。担保があることから、多額の資金を調達しやすい特徴があります。ただし、通常の融資よりも金利が高い傾向にあり、高金利債務を負うリスクがあるため注意が必要です。
5-2. LBOと混同しがちな「MBO」の意味
MBO(Management Buyoutの略称)とは、企業の経営陣が自社株式を買収して経営権を取得することです。そのため、資金調達方法とは関係ありません。MBOの目的は、全株式を買い取り、経営に関する決定を速やかに進められる環境にすることです。
6. スムーズな資金調達を実現するためにM&Aworksをおすすめできる理由
M&Aworksは、お客様の希望に沿ったM&Aの支援実績があります。日本全国のさまざまな業種の企業に対応し、小規模・零細企業の皆様からもご相談も承っているM&A仲介会社です。
担当コンサルタントは、M&A業務のみでなく、ビジネスに精通したプロフェッショナルです。資金調達にかかるアドバイスも中立的な立場から行うことができるため、ぜひお気軽にご相談ください。
7. まとめ
M&Aにおける資金調達方法は、直接金融や間接金融などさまざまです。そのため、どの方法が自社に適しているか判断に迷うことがあります。その場合は、M&Aの専門家に業務を依頼し、サポートやアドバイスを受けるのが良いでしょう。
M&Aworksでは、M&Aに関するご相談を初回は完全無料でお受けしております。M&Aに関して何かお尋ねになりたい際には、お気兼ねなくご相談ください。
コメント