
グローバル化が進む現代において、企業戦略の一環として国際的なM&A(クロスボーダーM&A)に注目する企業が増えています。国境を越えた企業との合併や買収は、新たな市場への進出や新技術の獲得などの利点をもたらしますが、文化の違いや法律、慣習の違いなどによって起こるリスクも伴います。そのため、十分な情報収集が必要です。
この記事では、クロスボーダーM&Aの基本的な定義や目的、そしてクロスボーダーM&Aを進めるにあたって起こりうるリスクについてわかりやすく解説していきます。クロスボーダーM&Aに興味を持っている人や、今後の国際的なビジネス戦略を考えている人は、ぜひ参考にしてください。
目次
1. クロスボーダーM&Aとは海外企業とのM&Aのこと
クロスボーダーM&Aとは、クロス(越える)ボーダー(国境)、つまり、国境を越えて行われるM&Aのことを指します。譲渡企業と譲受企業のいずれかが海外の企業であることが一般的です。
クロスボーダーM&Aは、企業がグローバルな事業展開を図るにあたって重要な戦略の一つとして考えられています。海外市場への進出や海外企業との資本提携を通じて、自社の事業を拡張する企業が増える傾向にあります。
ここでは、クロスボーダーM&Aの種類や目的について解説していきます。
1-1. クロスボーダーM&Aの種類は2つ
クロスボーダーM&Aには、主に国内の企業が海外企業を買収する「IN-OUT取引」と、国内の企業が海外からの投資を受ける「OUT-IN取引」の2種類です。これら2つの取引は、それぞれ異なる戦略から考えられています。
1-1-1. 国内の大手企業で見られる「IN-OUT取引」
大手企業で比較的実施されるM&Aです。たとえば、日本の自動車メーカーが、米国の自動車メーカーを買収する場合がこれに該当します。
大手企業にとって海外企業の買収は、海外市場のシェア拡大や技術取得を目的とした成長戦略の一環として行われることが多いです。インバウンド(国内向け)とアウトバウンド(海外向け)の取引を組み合わせることで、事業をグローバルに展開できる戦略を取りやすくなります。
ただし、文化の違いや現地の法規制への対応などが必要になります。そのため、事前調査と計画的なPMI(買収後の統合プロセス)が欠かせません。また、買収後の人材流出やシナジー効果(M&Aによる相乗効果)の不発というリスクにも対応できる体制を構築する必要があります。
1-1-2. 国内の中小企業でも見られる「OUT-IN取引」
OUT-IN取引は、海外企業が国内企業を買収するM&Aのことです。たとえば、外食チェーンを運営する国内中小企業が、米国の投資ファンドに買収される場合がこれにあたります。
人口が減り、市場が縮小傾向にある日本では、成長性のある海外市場を求める動きが活発化しています。こうした背景のなか、国内企業にとって外資系企業は魅力的な譲受企業となりえます。一方、日本での雇用や技術流出の懸念があるため、場合によってはマイナスにさえなりかねません。
そのため、出口戦略としてOUT-IN取引を選択する際には、十分な検討が必要になります。事業戦略上のメリットだけでなく、従業員や取引先への影響も考えておくことも大切です。
1-2. クロスボーダーM&Aを実施する目的
クロスボーダーM&Aは、海外市場への進出をスピーディーに実現できる手段の一つです。有効に活用できれば、現地企業の買収を通じて販路や人材を比較的短期間に獲得できます。加えて、自社にない技術やアイデアの取り込みが見込めれば、商品開発を通じた競争力強化などが図れます。
また、多様性から生まれるシナジー効果も期待できるかもしれません。異なる文化の融合により、新しい発想やアイデアが生まれ、製品やサービスの向上、差別化につながる可能性が高まります。ブランディング力の向上やコスト削減も期待されます。
ただし、こうしたクロスボーダーM&Aの利点を最大限に享受するには、海外市場と文化への理解が欠かせません。現地のニーズを的確に把握し、相手を尊重したうえで事業を推進することが成功のカギと言えます。
2. クロスボーダーM&Aで活用される代表的な2つ手法
クロスボーダーM&Aを実行するうえで、資金調達と会社の合併形態は重要な検討項目になります。代表的な手法として、「三角合併」と「LBO(レバレッジド・バイアウト)」が挙げられます。前者は合併後の会社形態の選択肢の一つであり、後者は借入金を活用した資金調達手法です。この2つの手法について順に見ていきましょう。
2-1. 消滅会社に対して存続会社の親会社の株式を交付する「三角合併」
三角合併とは、企業グループにおける親会社(買収の主体)の株式を対価として、存続する子会社が第三の会社(消滅会社)を合併させるM&A手法を指します。
たとえば、P社がB社を買収する目的で子会社A社を有しているとします。この場合、A社がB社を吸収合併し、その対価として、B社の株主に対してP社(親会社)の株式が交付されます。
この手法の最大のメリットは、P社(親会社)が現金を用いることなくM&Aを実行できる点にあります。自社の市場価値のある株式を対価とすることで、大規模な買収であっても手元の資金を温存したまま、買収対象企業(B社)の事業をグループに取り込むことができます。
三角合併は、主に国内外の企業買収において、現金支出を抑えつつ戦略的な事業拡大を図る場合や、複雑なグループ再編を簡素化したい場合に活用されることがあります。
2-2. 今後期待できる利益を担保に金融機関から借り入れて実施する「LBO」
LBOとはLeveraged Buy-Outの略で、「レバレッジド・バイアウト」と呼ばれる手法です。
これは、買収資金の大部分を借入金で賄い、買収後の企業の収益で借入金を返済していく買収手法です。
具体的には、買収候補企業の将来の収益性などに着目し、金融機関などから借り入れを行います。その借入金を使って買収を実行し、買収後の企業の収益を原資に借入金を返済していくのがLBOの特徴です。
LBOを活用するメリットとしては、自己資金の投入を最小限に抑えられ、金融機関からの借り入れにより買収資金を確保できることが挙げられます。一方で、借入金の返済負担が重荷となるリスクも存在します。業績が悪化した場合、返済困難に陥る可能性がある点にも注意が必要です。
3. クロスボーダーM&Aの3つのステップ
クロスボーダーM&Aは、グローバルにビジネス拡大を目指す企業にとって重要な戦略です。主に3つのステップに分かれており、計画的に進める必要があります。
3-1. ステップ1:M&Aが必要か検討する
まずは、自社の経営戦略の観点から、海外展開やグローバル化の必要性を検討することから始めます。具体的な検討項目としては、海外市場への進出目的、地域、販路、必要な人材などが考えられます。
そのうえで、自社の経営資源や財務状況も分析し、クロスボーダーM&Aが有効な選択肢かどうかを検討します。クロスボーダーM&Aにはさまざまなリスクも伴うため、そうした点にも十分な考慮が必要です。
自社にふさわしい相手となりえる候補企業の条件を定め、具体的な情報収集を行っていきます。候補企業の事業内容、財務状況、企業文化、統合シナジーの可能性など、さまざまな観点から可能な限り事前調査を実施することをおすすめします。
3-2. ステップ2:相手企業と交渉する
相手企業との本格的な交渉に入る段階では、まずは秘密保持契約(NDA)を締結します。これは、デューデリジェンス(対象企業の財務状況や財務リスク等を詳細に把握する調査)などを進めるうえで必要になるものです。
続いてデューデリジェンスの内容を鑑みて、条件や統合計画についての具体的な交渉を行います。買収または売却価格、株式取得比率、経営権の配分、人事統合など、さまざまな要素について、双方の利害を調整しながら合意形成を図ります。
この段階では、法務的な側面や税務上の影響など、専門家のサポートを得ることが不可欠です。最終的には、契約の締結により、クロスボーダーM&Aの基本合意を成立させます。
3-3. ステップ3:M&Aの実行・PMIを実施する
実際にM&Aを実行し、両社の統合プロセス(PMI: Post Merger Integration)に取り組みます。まずは、株式の取得や事業の譲渡などの手続きを進めます。許認可の確認や債権債務など、さまざまな面に対応が必要です。
統合プロセスでは、組織、人事、システムといったあらゆる領域において両社を調和させていく作業が求められます。とりわけ、人的統合は重要なポイントといえ、双方の企業文化の違いを理解することが欠かせません。
こうした統合プロセスは、往々にして複雑かつ困難を極めます。そのため、M&Aの実行段階から、専門家によるサポートを得ることが必要です。法務、人事、ITなどの専門家が、統合計画の策定から統合作業の実務まで支援していきます。
4. クロスボーダーM&Aに潜む4つのリスク
クロスボーダーM&Aは大きな利益をもたらす可能性がある一方、さまざまなリスクを伴います。これらを理解し、対策を講じることが重要です。
4-1. 相手国の政治面や経済面などの影響を受ける「カントリーリスク」
カントリーリスクは、国の政治、経済、法制度の変化により、M&Aの計画や運営に悪影響が及ぶ可能性があることを指します。
たとえば、政治情勢の変化により、突然の法改正や政策の転換があれば、事業への制限や経営に大きな支障が出るかもしれません。現地通貨の下落や外国為替規制の強化などが起これば、計画通りの投資ができなくなる可能性もあります。
このように、相手先の国の政治や経済の状況が、企業活動に大きな影響を及ぼしかねません。そのため、事前の綿密な情報収集と、リスクを最小限に抑える対策の検討が重要です。
4-2. 相手国の法律や文化、常識などの違いから起こる「訴訟リスク」
訴訟リスクとは、相手国の法律や文化、常識の違いにより、訴訟トラブルを起こす可能性があることを指します。
たとえば、労働の慣例の違いから労働者との軋轢が生じる場合や、風習の違いで反発を招くトラブルに発展する可能性があります。また、M&Aの取引後の経営統合過程において、相手国の慣習に反するような判断をすれば、株主から訴訟を起こされるリスクもありえます。
4-3. 相手国の環境基準や認識の違いから起こる「環境リスク」
環境リスクは、相手国の環境基準や環境に対する認識の違いによるトラブルで業績に悪影響を与える可能性があることを指します。
たとえば、環境保護に関する規制が厳しい国では、相手先企業の生産拠点の移転や設備の更新が必要となる可能性があります。また、相手国の環境意識が低い場合、企業の環境対策への理解が得られず、トラブルに発展するケースも考えられます。
これらのリスクを最小限に抑えるためには、繰り返しになりますが、十分な事前調査を行うことが重要です。そのうえで、自社の環境方針と相手国の基準の差異を埋めるための具体的な対策を検討し、実行に移す必要があるでしょう。
4-4. 相手国の労働文化や雇用条件などの違いから起こる「人的リスク」
人的リスクは、相手国の労働文化や雇用条件の違いにより、組織の活性化が阻害される可能性があることを指します。
そもそも、言葉が通じなければ意思疎通を図るのは難しいかもしれません。また、従業員の労働意識や職務への姿勢が自社とは大きく異なる場合、企業文化の統一が困難になる可能性があります。賃金や福利厚生に大きな開きがあれば、優秀な人材の確保や定着が難しくなるでしょう。
このように、クロスボーダーM&Aでは、言語や習慣の違いによる人的統合の困難さが大きな障壁となります。
5. まとめ
クロスボーダーM&Aは、企業がグローバルに事業を拡大するうえで重要な戦略です。海外の技術や市場の獲得が主な目的であり、三角合併やLBOなどの手法が活用されます。
しかし、カントリーリスクや訴訟リスクなどが存在します。成功させるには専門家のサポートが欠かせません。クロスボーダーM&Aを検討されている人は、まずは「M&Aworks」にご相談ください。
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