
M&A仲介およびFA(ファイナンシャル・アドバイザー)は、いずれもM&Aを成功に導く上で重要な役割を担いますが、提供するサポートの性質や立場にはそれぞれ明確な違いがあります。M&Aの規模、目的や関係者の構成などに応じて、適切なアドバイザリー形態を選ぶことが重要です。この記事では、両者の機能の違いを明確にし、実務的な観点からその選定基準を解説します。
近年、後継者不在問題の解決策や事業拡大・新規市場参入などを目的としてM&Aを検討する企業が増加しています。しかしながら、M&Aは専門性の高いプロセスであり、初めて取り組む企業が自社のみで完遂することは現実的に困難です。こうした背景のもと、M&A仲介やFAなどの専門的支援を活用する必要性が生じています。
ただし、どのような支援機関に依頼すべきか判断に迷う企業や経営者は少なくありません。一般的に、売上高が1,000億円を超える大企業はFAの活用が推奨される一方、オーナー企業や中小企業では、M&A仲介会社の利用がより適しているケースが多く見られます。この記事では、M&A仲介会社とFAの具体的な機能の違い、対象とする企業規模や取引の類型、さらにM&A仲介会社を選定する際の実務上で気を付けることを解説していきます。
目次
1. M&A仲介会社とFA(ファイナンシャル・アドバイザー)の役割
M&A仲介とFAは、いずれもM&Aにおいて重要な助言機能を担いますが、その業務のスタンスと関与の構造は本質的に異なります。まずは、それぞれの基本的な立ち位置と役割を見ていきましょう。
1-1. M&A仲介会社:中立的な立場からの調整支援
M&A仲介会社は、譲渡側と譲受側の双方に対して中立的な立場を保ち、両当事者間の利害関係を調整することでM&Aの円滑な成立を支援します。具体的には対象企業の財務状況や事業実態の分析を通じて、双方にとって合理的な取引条件を提示・交渉し、合意形成を促進します。
1-2. FA(ファイナンシャル・アドバイザー):依頼元企業の利益最大化
FAは、依頼元企業の利益最大化を目的に、M&Aの戦略立案、バリュエーション、条件交渉などを通じて支援を行います。原則として譲渡側・譲受側のそれぞれにFAが付きますが、交渉は利害相反のある構造で取引が進行するため、合意形成に時間を要するケースもありますが、よりそれぞれが自社の利益を追求する形で取引の進行をアプローチすることが可能となります。
2. M&A仲介会社とFAのそれぞれの向いているケース
M&Aの実施に当たっては、M&A仲介会社とFAのいずれかを起用すべきか判断に迷うケースも多いでしょう。この章では、両者の事業特性や支援のスタンスを踏まえ、それぞれの活用が効果的とされる代表例について解説します。
2-1. 大手上場企業のM&AやクロスボーダーM&Aの場合:FAが向いている
上場企業や海外企業との国際的なM&A(クロスボーダーM&A)など、取引規模が大きく、ステークスホルダーが多岐に渡る案件においては、FAの起用が適切と言えるでしょう。
特に上場企業では、経営陣と株主が分離しているケースが一般的であり、株主はM&Aに伴う自社への影響を慎重に評価し、自らの経済的利益が損なわれないことを重視します。こうした状況においては、依頼元企業の立場に立ち、株主利益の最大化を前提として助言を行うFAの存在は不可欠となります。
また、クロスボーダーM&Aでは、各国の法制度・税制・会計基準の違い、文化的背景の違いなど、多様な論点に精通している必要があります。特に外資系投資銀行や大手金融機関が提供するFAサービスは、国際案件の実務に長けており、依頼企業の利益を最大限するための戦略的支援を期待することができます。
2-2. 中小企業におけるM&Aの場合:M&A仲介会社が適している
中小企業を対象とするM&Aにおいては、当事者双方に対して中立的かつ包括的な支援を提供できるM&A仲介の活用が有効なケースがあります。
企業規模が比較的小さい場合、自社の企業価値や将来性を第三者的に評価し、適切な買収候補先を主体的に探索・提案することは、自社単独では経営資源などのリソースの観点から困難を伴うことが一般的です。そこで、M&A仲介会社は、企業の潜在的なバリューを専門的な視点から分析し、当事者の意向を反映させた合理的な条件設定のもと、円滑な交渉を支援します。
また、中小企業におけるM&Aでは、当事者の経営者同士がM&A実施後も友好的な関係性を維持したまま取引を完了させたいという意向を持つケースが多く見受けられます。その点において、利害調整に長けた中立的立場の仲介会社がいることは、合意形成を促進する上で大きな意義を持ちます。
3. 中小企業におけるM&AでM&A仲介会社に依頼するメリット
中小企業がM&Aを検討する際、M&A仲介会社へ依頼することで得られる具体的なメリットについて把握しておくことは、意思決定において大切な要素です。この章では、M&A仲介会社を活用することによって受けられるメリットについて解説します。
3-1. 幅広いネットワークを活用した相手候補探しが可能
M&A仲介会社は、独自のネットワークを通じてさまざまな譲渡・譲受企業との接点を持っています。そのため、自社の業種、地域、事業ステージに合った候補先企業の探索が可能になります。特に、特定地域や業種に特化したM&A仲介会社は、その領域に関する知見があり、ニーズに合致した企業を早く、高い精度で提案できる点が強みです。
3-2. M&Aの初期検討段階から成約まで一貫した専門的支援
M&A仲介会社は、M&Aのニーズの掘り起こしからクロージング(M&Aの取引を完了させる手続き)に至るまでの一連のプロセスにおいて、専門的な知見に基づいた包括的な支援を提供します。具体的には、主に以下のような実務領域に対応可能です。
・譲受候補先または譲渡候補先企業の紹介
・条件交渉における助言・調整
・各種契約書等の草案作成
・統合プロセス(PMI)に関するコンサルティング
M&Aは、成約までに法務・税務・財務など複数分野にわたる専門性を要する複雑なプロセスであるため、自社の業務と並行して自社単独で進行することは実務上で大きな負担となります。
その点、M&A仲介会社を通して専門家の知見を活用することにより、リスクを提言しながら円滑な進行を実現することが可能です。
3-3. 譲受企業・譲渡企業の友好的な関係構築を支援
M&A仲介会社が中立的な立場から利害を調整することで、譲渡・譲受企業の双方が対立することなく、有効的な合意形成を実現しやすくなります。
特に規模や業種の異なる企業同士のM&Aでは、相手方の業界特有の慣行や経営課題に対する理解が難しい場面も発生します。M&A仲介会社は、そうした情報格差がある状態を緩和し、当事者間の意思疎通を仲介することで、双方の理解を促進し、信頼関係に基づくM&Aの成立に貢献します。
3-4. M&A成約までの期間短縮と成約確率の向上
M&A仲介会社を活用することにより、ケースによっては双方のマッチングから成約までに至る時間を大幅に短縮することが可能です。豊富な経験と実績に基づくプロセスマネジメント能力と、既存のネットワークを活用することで、相手企業の選定や条件交渉、契約締結までのプロセスにおける、非効率な探索や交渉の無駄を取り除き、効率的な進行を実現します。
4. M&A仲介会社に依頼する際に必要な費用
M&A仲介会社へ業務を依頼する際には、下記のような各種費用が発生します。なお、報酬体系や支払いタイミングは各社によって異なるため、契約前にしっかりと確認することが重要です。
費用の種類 | 詳細 |
相談料 | ・M&A取引に関する初期相談に対する費用 ・初期相談は無償対応の仲介会社が多い |
着手金 | ・仲介会社とアドバイザリー契約締結時に発生 ・M&A戦略立案や候補先探索にかかる初期費用 |
中間報酬(中間金) | ・基本合意書締結時に支払う報酬 ・交渉進展に応じた成果ベースの中間金支払い |
月額報酬(リテイナーフィー) | ・M&A取引検討開始から、または基本合意書締結後から支払う報酬 ・長期案件への対応コストを平準化するための体系 |
成功報酬 | ・M&A取引が成立し、最終契約締結時に発生し、一般的に取引金額に連動する ・多くの場合、レーマン方式に基づき算定される。各社によってレーマン方式の対象(株価、移動総資産、純資産額など)が異なるため、確認が必要 |
外部専門家への費用 | 弁護士や公認会計士、税理士などによるデューデリジェンス(譲渡企業の調査)費用などの実費 |
5. M&A仲介会社を選ぶ際の3つのポイント
M&Aを円滑に、かつ成功裏に進めるためには、信頼性と実行力を備えた仲介会社の選定が不可欠です。以下では、M&A仲介会社の選定にあたって特に重視すべき3つの観点について解説します。
5-1. 得意とする業種・地域・規模を確認する
M&A仲介会社を選ぶ際は、その会社が専門とする業界、地理的な範囲、そして対象とする企業の規模などを過去の成約実績と共に確認することが重要です。特定の業種や地域に特化した企業であれば、その分野における業界構造や商習慣への深い理解を背景に、高品質のサービスを提供することが可能です。
また、上場企業や大手企業向けのサービスが主体の仲介会社と、中小企業のニーズに強く対応できる仲介会社とでは、得意とする企業規模が異なるでしょう。自社のステージに合わせて、最適な仲介会社を選定することが確度を高めるコツです。
5-2. 報酬体系が自社の予算に合うのかを確認する
M&A仲介会社の報酬体系が自社の予算に合っているかを慎重に検討することが極めて重要です。先述したように、M&A仲介業務に関する費用には相談料、着手金、中間報酬、月額報酬、成功報酬などさまざまな項目があり、項目ごとに発生時期や金額基準も異なります。
ただし、報酬額の安さのみでM&A仲介会社を選定するのは危険が伴います。例えば、M&A仲介会社のなかには、着手金を無料と設定している会社もありますが、これは一見魅力的な報酬体系に見える一方で、何らかの要因で候補先探索が難航したケースなどでは、仲介会社の社内で案件に対する優先順位が劣後し、結果として案件の放置が一定程度、散見されています。そのため、一定の着手金を支払うことによって、M&A仲介会社に対して一定のコミットメントを確保するという観点も有効です。
また、成功報酬の算定方式についても、詳細に確認しておくことが重要です。一般的な算定方式であるレーマン方式の有無や料率の妥当性を事前に確認することに加え、レーマン方式の算定基準が何に基づいているか(例:株式価額、移動総資産、純資産など)によって同じ料率でも報酬総額に大きな差異が生じ得る為、契約締結前に基準値の定義とその算出根拠を明確に把握しておく必要があります。
なお、中小企業庁の「M&A支援機関登録制度」では、登録された仲介会社・FAの手数料体系がデータベース上に公表されており、報酬の項目や基準となる評価額を比較検討するための標準情報源として活用可能です。
5-3. 豊富なM&A実績と支援体制確認する
M&Aは多岐にわたる複雑な専門業務を伴うため、自社の業種や規模に対応した実績を持ち合わせているかが、成約率の向上や手続きの効率化につながります。
更に、M&A支援の現場では、仲介会社としての組織的な実績に加えて、実際に担当するコンサルタント個人がこれまでに手がけてきた案件の実績数・成約率・取り組み業界や会社規模の内訳などから、提供されるサービスの質が大きく左右されるのが実情です。したがって、初回面談などの段階で、担当予定者の過去の実績、業種・案件の類型に対する理解度、交渉、調整におけるスタンスなどを丁寧にヒアリングしておくことが重要です。特に中堅・中小企業のM&Aでは、担当者との信頼関係と実務遂行力が成否を分ける要因になります。
6. 中小企業におけるM&AでM&Aworksがおすすめできる理由
M&Aworksでは、「M&Aはあくまで手段であり、企業の成長や経営者の人生を支援することが本質である」との理念に基づき、中小企業を中心としたM&A支援を行っています。弊社はこれまで数多くの中小企業を対象としたM&A案件を扱ってきた実績を元に経営者の方々のM&Aニーズに対する深い理解とノウハウを有しており、戦略設計・候補企業探索・交渉・契約締結・PMI(統合支援)に至るまで、全プロセスを一貫して伴走できる体制を整えています。
弊社の強みは、全国各地の広範なネットワークと、各地域・業種における蓄積された知見です。担当者は、地域の産業構造や経営者の個別課題に精通しており、経営者の身近なパートナーとして日頃からきめ細やかにコミュニケーションをとっています。そのため、お客様のご希望に合う相手企業をご紹介することが可能です。企業の抱える経営課題を理解し、適切なM&Aをご提案いたします。
さらに、M&Aworksでは「目的起点のM&A」を重視しており、事業承継・成長戦略・業態転換といったさまざまな経営課題に対し、経営者のビジョンに沿ったスキーム(M&Aの手法)設計を行います。企業文化や人材、事業の将来性までを視野に入れたアプローチにより、経済合理性のみならず「想い」も尊重したM&Aの実現を可能とします。
また、M&A成約後のPMI(Post Merger Integration)フェーズにおいても、組織再編や業務統合、人材配置など、M&A後の成長定着に必要な支援を提供しています。これにより、M&Aを“点”ではなく“線”で捉える支援が可能となり、経営者にとって安心して託せるパートナーとして評価されています。
7. まとめ
FAは依頼企業の利益の最大化を目的とした片側支援型であり、上場企業やクロスボーダーM&Aなど、利害関係が複雑かつ戦略性が求められる大規模案件で多く活用される傾向にあります。
一方、M&A仲介会社は、譲渡企業と譲受企業の間に中立的な立場を取り、候補先企業の探索から条件交渉、契約締結に至るまでを一貫して支援します。特に中小企業においては、限られた経営資源の中で相手企業の選定から契約とりまとめまでを自社単独で進めることは実務面・心理面の両面において大きな負担となることに加え、譲渡側・譲受側いずれの経営者も、M&A後における円滑な関係継続や従業員・顧客への影響を重視する傾向が強く、単なる刑事あ条件の交渉では解決しきれないソフト面に配慮した進行が不可欠です。
こうした状況において、譲渡企業と譲受企業の間に立ち、中立的な立場で双方の意向を丁寧に汲み取りながら、関係性を損なうことなく着実に交渉を進めるM&A仲介会社の役割が極めて重要となります。単なる情報提供や条件提示にとどまらず、信頼関係の橋渡しを担う存在として、仲介会社はM&Aの成功とその後の協業の円滑化に向けたキープレイヤーとなります。
中小企業におけるM&Aを検討している人は、M&Aの専門企業である「M&Aworks」にご相談ください。M&Aworksは、中小企業の事業承継や事業拡大など、経営者が抱えるさまざまな課題解決のための支援を行っています。豊富な経験とノウハウを持ち合わせているM&Aworksが、貴社のニーズに合致した最適な選択肢をご提案いたします。
コメント